なぜ尿中電解質で塩分摂取量がわかるのか?

体内のナトリウム(Na)とカリウム(K)は、摂取量と排泄量が比較的一定のバランスを保つ性質があります。そのため、尿中Na・Kの濃度から、食塩(塩化ナトリウム)摂取量を推定することが可能です。
特に高血圧管理や心不全・腎疾患などの慢性疾患管理において、**塩分摂取量の「見える化」**が治療効果とアドヒアランス向上につながります。
塩分摂取量の推定方法と計算式
① 24時間尿を用いた推定(標準法)
推定食塩摂取量(g/日)= 尿中Na(mEq/日)× 58.5 ÷ 1000
(58.5はNaClの分子量:Na=23、Cl=35.5)
例:尿中Naが150 mEq/日の場合 → 150 × 58.5 ÷ 1000 = 8.8g/日
※実際のNa排泄率は摂取量の約85〜95%とされるため、ほぼ正確な推定が可能です。
② スポット尿を使った推定(簡易法)
【Tanaka式(日本人に適した代表的推定式)】
推定食塩摂取量(g/日)=21.98×(尿中Na/尿中Cr)^0.392 ×(体重)^0.555
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単位:尿中NaはmEq/L、尿中Crはmg/dL、体重はkg
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採尿時間帯の影響や運動直後などでばらつきがあるが、健診などでは有用
尿中カリウムとNa/K比の臨床的意義
カリウム摂取と降圧効果
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カリウムはナトリウムの排泄を促し、血圧を下げる作用がある
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野菜・果物の摂取目安を反映(高血圧予防食=DASH食でも重要)
Na/K比による食事バランスの評価
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Na/K比が2未満であれば「良好な食事バランス」
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日本人平均は3以上 → 高Na・低K食であることが多い
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Na/K比を指標として減塩と野菜摂取のバランス改善指導が可能
臨床現場での活用法

1. 高血圧・心不全・CKD患者の減塩指導
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「塩分制限ができていない理由」が明確に
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数値を見せることで患者のモチベーション向上に有効
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降圧薬が効きにくいケースでNa過剰摂取の証拠として再教育に活用
2. 食事・栄養評価の補助
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専門医による指導に、定量的な評価指標として加える
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カリウム値やNa/K比から野菜・果物摂取量の改善提案に活用
3. 薬剤選択・用量調整の参考
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サイアザイド系利尿薬使用中のNa排泄増加確認や低K血症リスク評価に
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SGLT2阻害薬やRAS阻害薬使用中の電解質変化の把握にも有用
当院でのサポート

当院では、生活習慣病の管理の一環として、尿中Na・K測定による塩分摂取推定と栄養指導の強化を行っています。
1. 減塩指導の数値化
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24時間尿または早朝スポット尿による塩分摂取量の定量評価
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Na/K比による食事バランスの「見える化」
2. 専門医による的確な栄養指導
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数値に基づいた行動変容型の栄養指導(1日の塩分量目標7g未満)
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カリウム摂取増加に向けた食材選び・調理法の具体的提案
3. 薬物治療との併用管理
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利尿薬、SGLT2阻害薬、RAS阻害薬使用中の電解質異常予防のためのモニタリング
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高リスク例には内服+食事療法の複合介入を実施しています
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医