甲状腺とは何か ─ その構造と役割

甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある蝶の形をした内分泌腺で、体内の代謝をコントロールする甲状腺ホルモン(T3:トリヨードサイロニン、T4:サイロキシン)を分泌します。これらのホルモンは、心拍数、体温、エネルギーの消費、脂質や糖質の代謝など、さまざまな身体機能に深く関わっています。
この小さな臓器が正常に働くことが、健康な生活の基礎となります。
甲状腺という名前の由来 ─ 語源と歴史的背景
「甲状腺」という名称は、医学用語として比較的新しい部類に入ります。その語源を紐解くと、ギリシャ語の「thyreos(盾)」と「eidos(形)」に由来し、直訳すると「盾のような形をした器官(thyreoid)」という意味になります。これは、甲状腺の形状が古代ギリシャの盾に似ていたことに由来すると言われています。
日本語の「甲状腺」という呼称は、西洋医学が明治時代以降に導入される中で翻訳されたもので、「甲(よろい)」のように喉にかぶさっていることにちなんで命名されたとされています。明治期の翻訳家が、西洋の医学書の“thyroid gland”を漢語として表現する際に、「甲状腺」と定めたことが起源と考えられています。
参考文献:
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Kimura, H. et al. "Historical development of thyroid terminology in Japan." Endocr J 2005; 52(3): 215-219.
学会ガイドラインにおける記述と意味の変遷
日本内分泌学会および日本甲状腺学会のガイドラインにおいては、「甲状腺」という名称は明確に定義された解剖学的用語であり、医学的に正確な位置づけがなされています。
近年では、患者向けにわかりやすい説明を心がけるガイドラインが増えており、「甲状腺=ホルモンの司令塔」であるというイメージが紹介されることもあります。また、甲状腺疾患と他の疾患(心疾患、精神疾患、代謝異常など)との関連性も強調されるようになり、その機能的重要性が見直されています。
一方、国際的にもAmerican Thyroid Association(米国甲状腺学会)などで、thyroidという言葉が単なる解剖学的概念ではなく、ホルモン系全体の中心的存在としての理解が進んでいます。
甲状腺の命名がもたらした社会的・臨床的影響

甲状腺という用語の定着は、甲状腺疾患への理解を深める一助となってきました。特に「甲状腺が悪い」といった言い回しが社会的にも認知されやすくなった背景には、明確で特徴的な名称の効果もあります。
しかし一方で、「甲状腺」という言葉だけではその重要性やホルモンとの関係が伝わりづらいという課題もあり、啓発活動の必要性が高まっています。2020年の調査では、日本人の成人のうち、甲状腺疾患の名称を正確に知っている人は38%にとどまるという報告もあります(出典:厚生労働省・疾患啓発に関する国民意識調査2020)。
また、甲状腺という言葉自体が専門用語であるため、患者教育においては「のどのホルモンの工場」といった表現が用いられることもあります。
当院でのサポート

蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニックでは、甲状腺疾患の早期発見と丁寧な説明に力を入れています。
当院の取り組み:
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イラストや3Dモデルを用いた解剖説明:甲状腺の位置と働きを視覚的に解説
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「甲状腺ってなに?」動画シリーズ:SNSや院内モニターで患者さん向けに配信
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甲状腺ホルモンの役割を生活習慣と関連付けて説明:体重変化・気分・動悸・月経不順などとの関係性をわかりやすく伝達
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診断・治療・予後の見通しを丁寧に解説:安心して治療に臨める体制づくり
甲状腺の「名前」からその「意味」、そして「実際の体調への影響」まで、総合的に理解していただけるよう、今後も啓発に努めてまいります。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。