甲状腺と水分バランスの関係

甲状腺ホルモンは、全身の代謝・体温調節・発汗・循環動態に大きく関与しています。そのため、甲状腺疾患を有する方では、脱水症のリスクや症状の出方が一般の方とは異なることがあります。
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バセドウ病(甲状腺機能亢進症):代謝亢進・発汗過多・下痢などにより体内水分が失われやすい
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甲状腺機能低下症(橋本病など):代謝低下・循環血流の低下により、脱水を自覚しにくく、体内の水分調節が鈍化
バセドウ病における脱水リスク
特徴的な脱水誘因
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発汗量の異常増加(特に夜間)
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下痢傾向(腸管運動亢進による)
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頻脈・微熱持続により体温調節が不安定に
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高齢者では「甲状腺中毒性ミオパチー」により飲水動作自体が困難なことも
注意すべき症状
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慢性的な疲労感、動悸、手足のふるえ、熱感と重なり、脱水に気づきにくい
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意識のぼんやり、尿量減少、立ちくらみは脱水進行のサイン
甲状腺機能低下症と脱水の潜在的リスク
関連メカニズム
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発汗低下 → 体温調節障害 → 熱がこもりやすい(「冷え」とは逆の内因性不均衡)
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腸蠕動の低下・便秘・食欲低下による水分摂取量の低下
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腎血流低下 → 尿濃縮力の低下 → 慢性軽度脱水状態
注意点
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高齢者では**「浮腫+脱水」が同居するケース(細胞外液は増えても細胞内脱水)**がある
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精神的な無気力・抑うつが強く、飲水行動自体が減ることも
脱水予防と対策

日常の対策
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こまめな水分摂取(朝・昼・夕でコップ1〜2杯を目安)
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利尿効果の高い飲料(カフェイン・アルコール)の過剰摂取を控える
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食事からの水分補給も意識(味噌汁・果物・ゼリーなど)
バセドウ病治療中の指導
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汗をかきやすい時期や治療初期は水分・電解質(ナトリウム・カリウム)補給を意識
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微熱・頻脈がある場合は通常より多めの補水を推奨(1.5〜2.5L/日)
橋本病・機能低下症での工夫
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便秘・食欲低下がある場合は飲みやすい飲料やスープを活用
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利尿薬や甲状腺ホルモン補充療法中の方は定期的な体重・浮腫・血液検査で状態を把握
当院でのサポート

当院では、甲状腺疾患に伴う水分バランスの異常や脱水症への対策を、以下のような体制で行っています。
1. 初診時からの丁寧な評価
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発汗・食欲・便通・体重変化・夜間頻尿などを詳細に問診
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バセドウ病治療中の方には夏季・発熱時の脱水対応リーフレットを配布
2. 定期採血・体重測定・尿比重チェックの活用
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血清Na、BUN/Cr、T3/T4バランス、Hb・Htから水分状態を推定
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必要に応じて経口補水・点滴治療も対応
3. 生活習慣へのアドバイス
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夏場の衣類・冷房・入浴・食事・飲料の取り方など、患者ごとの生活に合わせた指導を実施
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甲状腺疾患と脱水が関連する「なんとなく不調」への早期対応を心がけています
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医