糖尿病が発見される前の糖尿病のような病気の呼ばれ方について

古代から中世における糖尿病様疾患の記録

糖尿病が現代のように診断・治療されるようになったのは、19世紀以降のことです。しかし、人類は古代から糖尿病に似た症状を認識していました。

古代エジプト・インドでの記述

  • 紀元前1500年頃のエジプトの文献『エーベルス・パピルス』では、過剰な排尿を訴える疾患が記録されており、これは糖尿病の多尿症状と一致します。

  • 紀元前500年頃のインドのアーユルヴェーダ医学では、"Madhu Meha(蜂蜜尿)"という病気が記録されており、尿が甘く蟻が寄ってくるとされていました。これは糖尿病の糖尿現象を表しています。

古代ギリシャ・ローマにおける呼称

  • ギリシャでは、紀元前2世紀にアレタイオスが「Diabetes(通り抜けるもの)」という言葉を使用。これは、飲んだ水がそのまま排出されるという症状に由来しています。

  • ローマ時代では、"Diabetes Mellitus(甘い尿の通過病)" という言葉が登場。Mellitusはラテン語で"蜂蜜のように甘い"という意味です。

このように、現代の糖尿病という言葉が定着するまでには、地域・時代により様々な表現が用いられてきました。

東洋における糖尿病の記述と概念

中国医学における「消渇(しょうかつ)」

中国の伝統医学では、糖尿病に相当する疾患は「消渇」と呼ばれてきました。

  • 『黄帝内経』では、口渇・多飲・多尿・体重減少などの症状を持つ病態として記述。

  • 消渇は「上消(口渇)」「中消(多食)」「下消(多尿)」と分類され、病態ごとの治療が試みられていました。

日本における呼称の変遷

  • 日本では、中国医学の影響を受けて「消渇」「渇病」と呼ばれていた。

  • 江戸時代の漢方書『万病回春』などでは、甘い尿の描写とともに、治療法としての養生・漢方薬が記載されている。

これらの記録は、東洋でも糖尿病と類似した病態が長らく認識されていたことを示しています。

医学の進展と糖尿病の定義確立

血糖の発見と糖尿病の正体

  • 19世紀初頭、イギリスの医師マシュー・ドブソンが、糖尿病患者の尿に糖が含まれることを科学的に証明。

  • その後、血糖値の概念が登場し、糖尿病が代謝疾患であることが明らかに。

インスリン発見以前の治療法

  • 高タンパク・低糖質の食事療法が中心。

  • 一部では絶食療法も行われ、危険性が高かった。

インスリンの登場

  • 1921年、カナダのバンティングとベストによりインスリンが発見され、糖尿病治療は飛躍的に進化。

引用:

  • Dobson M. Experiments and Observations on the Urine in Diabetics. 1776.

  • Banting FG, Best CH. The internal secretion of the pancreas. J Lab Clin Med. 1922.

現代における名称・分類と混乱

「糖尿病」という日本語名の由来と課題

  • 「糖尿病」という名称は、尿に糖が出るという症状に由来しています。

  • しかし、初期や良好な血糖コントロール下では尿糖が出ないこともあり、名称が誤解を生む可能性も。

英語圏の呼び方

  • Diabetes Mellitus(DM)と呼ばれ、タイプ1・タイプ2・妊娠糖尿病などに分類。

  • 近年では「糖尿病」という語がもたらすスティグマ(偏見)を避けるため、「ダイアベティス」という中立的呼称を推進する動きもあります(日本糖尿病協会など)。

近年のガイドライン

  • 日本糖尿病学会では「糖尿病」は正式名称として残っているが、患者支援の観点から呼称の見直しも議論されています(日本糖尿病学会2023年度報告)。

当院でのサポート

 

当院では、糖尿病に対する医学的支援だけでなく、歴史的背景や名称にまつわる誤解を解き、患者さんが自信を持って治療に取り組めるよう支援しています。

  • 丁寧な説明:糖尿病の語源や意味も含め、診断時にわかりやすく説明。

  • 心理的サポート:病名による不安や偏見に対し、患者さんに寄り添う医療を提供。

  • 継続的教育:院内パンフレットやYouTube動画で、糖尿病の歴史や正しい知識を発信。

糖尿病という病気は、ただの数値異常ではなく、生活に深く関わる疾患です。名前の歴史を知ることは、病気への理解と受容の一歩につながります。


監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

 

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