糖尿病と脂質異常症—リスクが重なる病態の理解

糖尿病と脂質異常症は、いずれも単独でも動脈硬化を進行させる重大な疾患ですが、合併することでリスクは相乗的に高まります。このため、両者の合併症例ではより厳格な管理と多面的な介入が求められます。
糖尿病がもたらす血管リスク
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高血糖状態が血管内皮機能を障害し、酸化ストレスを増大
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インスリン抵抗性により中性脂肪高値・HDL低下を引き起こす
糖尿病に特有の脂質プロファイル
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高TG・低HDL・sdLDL増加(いわゆる糖尿病性脂質異常)
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LDL-Cが正常でも動脈硬化リスクが高い("見えないリスク")[1]
動脈硬化性疾患のリスク評価と疫学データ
リスクの重複による影響
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糖尿病+脂質異常症の合併で心筋梗塞リスクは2〜4倍に増加[2]
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脳梗塞・末梢動脈疾患の発症率も上昇
日本人データの特徴
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日本では糖尿病性脂質異常が比較的高頻度(40〜60%)
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女性・高齢者・肥満例に多く、家族性高コレステロール血症の重複も[3]
ガイドラインの分類
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日本動脈硬化学会(JAS 2022)では**糖尿病合併例は「高リスク」**に分類
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LDL-C目標:100mg/dL未満(可能なら70mg/dL未満)
管理目標と治療戦略の実際
LDL-C管理の基本
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第一選択はスタチン(高強度:アトルバスタチン、ロスバスタチンなど)
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エゼチミブ併用でさらなる20%程度のLDL-C低下が可能
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非HDL-CやApoBの測定も推奨されている[4]
高TG・低HDLへの対応
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フィブラート系薬剤(ベザフィブラート、ペマフィブラート)
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高純度EPA製剤(イコサペント酸エチル):REDUCE-IT試験で25%イベント減少[5]
最新の治療薬
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PCSK9阻害薬(エボロクマブ、アリロクマブ):LDL-Cをさらに60%低下
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インクリシラン:年2回の注射でLDL-C50%減少、スタチン不耐症に適応
インクレチン系薬との相性
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GLP-1受容体作動薬(リラグルチド、セマグルチド)はLDL低下+動脈硬化抑制効果あり
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SGLT2阻害薬もHDL上昇やTG低下に寄与し、併用が効果的
生活習慣の徹底と早期介入の意義

食事療法
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総脂質量よりも**脂質の質の改善(オメガ3・不飽和脂肪酸)**が重要
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糖質制限に偏りすぎず、バランスの良い地中海型食の導入も推奨
運動療法
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有酸素運動(週150分以上)でTG・HbA1c・インスリン抵抗性を改善
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筋力トレーニングも併用し内臓脂肪減少+HDL上昇に有効
禁煙・睡眠・ストレス管理
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喫煙は動脈硬化促進因子、禁煙指導の徹底
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睡眠障害(睡眠時無呼吸)による血糖・脂質悪化への対処も重要
当院でのサポート

当院では、糖尿病と脂質異常症が合併した患者様に対して、心血管リスクを総合的に管理する診療を行っております。
1. リスク評価と定期検査
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LDL-C、non-HDL-C、TG、HDL-C、ApoB、Lp(a)、冠動脈CT、頸動脈エコーなどを駆使
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糖尿病指標(HbA1c、GA、インスリン抵抗性マーカー)も同時評価
2. 個別化された薬物療法
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LDL-C高値にはスタチン+エゼチミブ+PCSK9阻害薬の併用を段階的に導入
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高TGやsdLDL優位型にはEPAやフィブラートを選択
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スタチン不耐症にはインクリシランやベンペド酸の適応評価も
3. 管理栄養士による生活支援
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糖尿病と脂質異常に配慮した個別栄養指導を定期実施
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LINE・アプリ連携による生活記録とフィードバック
4. チーム医療によるフォローアップ
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専門医・薬剤師・臨床検査技師と連携した多職種支援
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脂質+血糖の“ダブルコントロール”を実現
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。
引用文献
[1] Taskinen MR, et al. Diabetologia. 2010;53(6):1145–1155.
[2] Grundy SM, et al. Circulation. 1999;100(13):1134–1146.
[3] Yamamoto M, et al. J Atheroscler Thromb. 2021;28(9):901–910.
[4] JAS Guidelines 2022. 日本動脈硬化学会.
[5] Bhatt DL, et al. N Engl J Med. 2019;380(1):11–22.