甲状腺結節の診断における課題とニーズ

甲状腺結節は一般人口の約5〜7%に認められ、多くは良性ですが、約5〜15%は悪性腫瘍(主に乳頭がん)である可能性があります。従来、超音波検査や穿刺吸引細胞診(FNA)が診断の中心でしたが、FNAが非確定(Bethesda分類III〜IV)となるケースも多く、診断が困難な症例も存在します。
従来法の限界:
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FNAの結果が不明瞭な場合、不要な手術に繋がるリスク
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組織診断が得られるまでに時間がかかる
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検査に対する痛みや不安がある
現在のニーズ:
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非侵襲的で高精度な補助診断ツールへの需要が高まっている
超音波エラストグラフィとは?
エラストグラフィ(elastography)は、超音波によって組織の「硬さ(弾性)」を可視化する技術です。腫瘍が硬いほど悪性の可能性が高いという生体組織の性質を利用し、甲状腺結節の良性・悪性鑑別をサポートします。
主なエラストグラフィの種類:
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ストレインエラストグラフィ(圧迫による歪みを評価)
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シアウェーブエラストグラフィ(音波で生じる横波の速度を測定)
新規性と独自性:
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組織の「硬さ」を数値化(kPa単位)することで、視覚的・定量的な診断が可能
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他の画像診断(CTやMRI)にはないリアルタイム評価ができる
エラストグラフィの精度と臨床的有用性
臨床研究からの知見:
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**Meta分析(Zhan J, et al. Eur Radiol 2016)**では、シアウェーブエラストグラフィの感度85%、特異度80%と報告
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**日本内分泌学会・甲状腺学会(2023年ガイドライン)**でも、エラストグラフィは穿刺前スクリーニングとして有用と明記
数値データ:
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シアウェーブ速度(SWV)3.0 m/s以上、または硬度65kPa以上で悪性の可能性が高まるという報告あり(Liu B, et al. Ultrasound Med Biol, 2015)
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柔らかい結節は95%以上が良性であることが確認されている
安全性:
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非侵襲的・痛みなし・即時結果確認が可能
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被曝ゼロで繰り返し使用可能
早期診断・経過観察・患者負担軽減の意義

エラストグラフィの臨床応用:
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FNAを実施するべき結節の選別に有用
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長期経過観察中の大きさ変化がない結節でも、硬度変化を検出可能
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良性と判断された患者への不安軽減(不要なFNAを避けられる)
新たな展望:
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AIと組み合わせた自動診断支援システムの開発が進行中
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将来的には穿刺を伴わないスクリーニングの中心技術となる可能性
独自性:
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病変の形態だけでなく「物性」を評価できる初の超音波技術として注目
当院でのサポート

当院の特徴:
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エラストグラフィ評価による非侵襲的かつ迅速なリスク評価
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超音波検査に精通した臨床検査技師による詳細な画像評価
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必要な場合は牧田総合病院などと連携し、細胞診や手術へ迅速に対応
患者へのメリット:
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無痛・放射線被曝なしの安心な検査
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経過観察中の「見逃し」や「過剰医療」を防ぐ最前線の医療
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LINEやオンラインでのフォロー体制も充実
甲状腺結節の診断は、“ただ見つける”から“どう評価するか”の時代へ。科学的根拠に基づき、患者さまにとって最も適切な選択を提供しています。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。
引用文献:
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Zhan J, et al. "Elastography for the diagnosis of thyroid nodules: a meta-analysis." Eur Radiol. 2016.
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Liu B, et al. "Shear wave elastography for detection of thyroid nodules: a comparative study." Ultrasound Med Biol. 2015.
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日本内分泌学会・日本甲状腺学会. 甲状腺疾患診療ガイドライン2023年度版.