LADAとSPIDDMの違いについて

LADAとSPIDDMとは何か ─ 定義と基礎知識

糖尿病は1型、2型に大別されますが、その中間的な特徴を持つ「1.5型糖尿病」として知られる疾患群に、LADA(Latent Autoimmune Diabetes in Adults)とSPIDDM(Slowly Progressive Insulin-Dependent Diabetes Mellitus)があります。

  • LADAは、主に欧米で使われる用語であり、「成人発症の潜在性自己免疫性糖尿病」と訳されます。

  • SPIDDMは、日本で用いられる用語で、「緩徐進行1型糖尿病」と訳されます。

どちらも、発症初期はインスリン非依存(内服薬でコントロール可能)ですが、数ヶ月〜数年でインスリン依存状態に進行するという特徴を持ちます。

主な共通点:

  • 自己免疫性(抗GAD抗体陽性が多い)

  • 成人で発症する

  • 徐々に膵β細胞機能が低下する

主な相違点:

特徴 LADA SPIDDM
主な使用地域 欧米 日本
定義の基準 年齢(30歳以上)、インスリン非依存期、抗GAD抗体陽性 抗GAD抗体陽性、インスリン依存への進行性が明確
診断のガイドライン Immunology of Diabetes Society(IDS) 日本糖尿病学会、日本内科学会
言語的起源 英語(Latent Autoimmune Diabetes in Adults) 日本語(Slowly Progressive Insulin Dependent Diabetes Mellitus)

最近の学会ガイドラインと定義の変遷

日本糖尿病学会の見解(2020年改訂)

  • SPIDDMの診断には、自己抗体(特に抗GAD抗体)が陽性であること、かつインスリン治療の必要性が時間経過とともに高まることが必要。

  • 内服薬でコントロールされていた糖尿病が、徐々に膵β細胞機能の低下によりインスリン治療が必要となったケースでは、SPIDDMの可能性を考慮。

欧米のガイドライン(ADA、EASD)

  • LADAの定義にはインスリン依存でない成人発症型糖尿病で、自己抗体(GAD65など)が陽性であることを条件とする。

  • LADAは2型糖尿病と誤診されやすいため、早期の抗体測定とCペプチド検査が推奨される(Hawa et al., Diabetologia 2013)。

LADAとSPIDDMの鑑別と臨床上の意義

LADAとSPIDDMは共通点も多く、ほぼ同じ疾患概念と捉えられることもありますが、日本ではSPIDDMという概念の方が臨床的に浸透しています。

鑑別のためのポイント:

  • GAD抗体価:高値であれば進行が早い傾向がある(Buzzetti et al., Diabetes 2007)。

  • Cペプチド:内因性インスリン分泌のマーカー。食後Cペプチド値が1.0ng/mL以下なら進行の兆候。

  • 進行速度:SPIDDMは比較的ゆっくりと進行し、インスリン開始までに平均3年程度(Nakanishi et al., Diabetologia 1995)。

誤診リスク:

LADA/SPIDDMは2型糖尿病と誤診されやすく、SU薬などで膵β細胞を過剰に刺激してしまい、逆にインスリン分泌低下を早めるリスクがあるため注意が必要です。

早期診断・治療と安全性の確保

早期診断の重要性

  • 抗GAD抗体の測定やCペプチドの評価により、2型糖尿病との区別が可能になります。

  • 進行に応じた早期のインスリン導入により、糖毒性から膵β細胞を保護することができます。

治療の安全性

  • 進行度に応じた段階的なインスリン導入が推奨されます。

  • DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬などインスリン分泌依存の少ない薬剤との併用が安全。

  • 抗体陽性が判明した時点で、今後の進行について十分に説明することで患者の不安を軽減します。

数値データ

  • 日本でのSPIDDMの有病率は糖尿病全体の5〜10%(Nakanishi K et al., Diabetes Care 1999)

  • 抗GAD抗体陽性の糖尿病患者のうち約30〜50%が5年以内にインスリン導入となる(Zhou Z et al., J Clin Endocrinol Metab 2010)

当院でのサポート

 

当院では、LADAおよびSPIDDMの早期診断・進行予測に力を入れています。

  • 詳細な採血による抗体・Cペプチド検査:診断精度の向上を図っています。

  • 個別化治療:進行度と残存膵機能に応じてインスリン導入・内服薬調整を行います。

  • 患者教育と生活指導:将来的なインスリン導入の可能性も含めた説明を行い、無理なく治療を継続できるよう支援しています。

  • 専門医連携:合併症の有無や他の自己免疫疾患(甲状腺疾患など)についてもトータルで管理しています。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

 

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