PCSK9阻害薬(レパーサ・プラルエント)と新しい注射製剤の登場について

PCSK9阻害薬とは何か?— LDL-Cを劇的に下げる新時代の注射薬

PCSK9(Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin Type 9)は、肝臓でのLDL受容体の分解を促進し、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を上昇させるタンパク質です。これを抑制する薬剤がPCSK9阻害薬で、注射製剤として開発されました。

主なPCSK9阻害薬

  • レパーサ(エボロクマブ):Amgen社製、2週間または月1回の皮下注射

  • プラルエント(アリロクマブ):Sanofi/Regeneron社製、2週間ごとに皮下注射

作用機序

  • PCSK9の働きを阻害することで肝臓のLDL受容体が再利用され、血中LDL-Cが減少

  • スタチンやエゼチミブで下がりきらないLDL-Cにも強力に作用

ガイドラインでの評価

  • 日本動脈硬化学会(JAS 2022)では、極高リスク症例における重要な治療選択肢として記載[1]

驚異の効果とエビデンス — LDL-Cを“40未満”に下げる力

FOURIER試験(2017)

  • エボロクマブによりLDL-Cが約60%低下、中央値30mg/dLに到達

  • 心筋梗塞・脳卒中・冠動脈再灌流のリスクが15%低下[2]

ODYSSEY OUTCOMES試験(2018)

  • アリロクマブ使用により、LDL-Cが中央値53mg/dL → 38mg/dLに低下

  • 急性冠症候群後の再発抑制に有効(心血管イベント12.5% vs 14.5%)[3]

数値のインパクト

  • LDL-C 70mg/dL → 40mg/dL以下への低下により、心血管リスクは約25%減少[4]

新しい注射製剤の登場と次世代の治療選択肢

1. インクレチンGLP-1受容体作動薬との併用治療

  • 心血管イベント抑制効果をもつGLP-1製剤との併用治療の実臨床応用が拡大

  • 糖尿病+脂質異常症の複合管理がより容易に

2. RNA干渉薬(siRNA) — Inclisiran(インクリシラン)

  • PCSK9合成そのものを抑える新機序

  • 年2回の皮下注射で効果を持続

  • LDL-Cを50%以上低下、コンプライアンスが飛躍的に向上[5]

  • 2020年欧州承認、日本では2025年以降導入見込み

3. アンチセンス核酸医薬の開発

  • Lp(a)やトリグリセリドを標的とする次世代薬剤が開発中

  • LDL以外の脂質異常にもアプローチ可能な時代へ

安全性と費用対効果 — 誰に使うべきか

安全性

  • 注射部位の軽微な腫れや赤み以外、大きな副作用は少ない

  • 肝機能や筋障害リスクも極めて低く、スタチン不耐症にも安心

保険適応と費用

  • 日本では**「家族性高コレステロール血症」または「既存治療で十分にLDL-Cが下がらない冠動脈疾患患者」に保険適用**

  • 月2回投与:約4〜5万円(高額療養費制度で自己負担軽減可)

使いどころ

  • スタチン+エゼチミブでLDL-Cが70未満にならない症例

  • 糖尿病・CKD・脳梗塞既往など多重リスク症例

当院でのサポート

 

当院では、脂質異常症と動脈硬化リスクの高い患者さんに対して、PCSK9阻害薬および新注射製剤の積極的な導入とモニタリングを行っています。

1. 詳細なリスク評価と検査

  • LDL-C、non-HDL-C、Lp(a)、hs-CRP、冠動脈CTなどによる動脈硬化リスクの総合評価

2. 投薬戦略の個別化

  • 家族性高コレステロール血症や糖尿病を含む極高リスク群では積極的なPCSK9阻害薬の導入

3. 継続的な効果モニタリング

  • 3カ月ごとの血液検査でLDL-Cの動態と副作用を確認

  • 患者負担を抑えた処方計画

4. 栄養・生活支援の併用

  • 専門医による脂質異常症の食事指導

  • 運動療法・禁煙支援の実施


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献

[1] 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.
[2] Sabatine MS, et al. N Engl J Med. 2017;376(18):1713–1722.
[3] Schwartz GG, et al. N Engl J Med. 2018;379(22):2097–2107.
[4] Ridker PM, et al. Circulation. 2017;135(22):2079–2091.
[5] Ray KK, et al. Inclisiran in patients with high LDL cholesterol. N Engl J Med. 2020;382:1507–1519.

 

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