SGLT2阻害薬が高血圧にも有効?最新の循環器研究について

SGLT2阻害薬とは? — 糖尿病薬から循環器領域へ広がる適応

SGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)阻害薬は、もともと2型糖尿病の治療薬として開発され、尿中へのブドウ糖排泄を促進することで血糖を下げる薬です。ところが近年、心不全や慢性腎臓病(CKD)への適応が次々に拡大し、**循環器・腎臓・内分泌の三領域をまたぐ新たな“マルチターゲット薬”**として注目されています。

SGLT2阻害薬の代表例

  • ダパグリフロジン(フォシーガ)

  • エンパグリフロジン(ジャディアンス)

  • カナグリフロジン(スーグラ)

日本高血圧学会ガイドライン(JSH 2024)の記載

JSH 2024では、糖尿病合併例や心不全症例において、SGLT2阻害薬が降圧作用を持ちうる薬剤として明記され、適応外ながらも高血圧への使用が期待されています[1]。

SGLT2阻害薬の降圧作用 — そのメカニズムとは?

1. 利尿・ナトリウム排泄による血圧低下

SGLT2阻害薬は、腎臓でのナトリウム再吸収を抑制し、軽度の利尿作用とナトリウム排泄を誘導。その結果、血液量が減少し、血圧が下がります。

2. 血管機能改善・動脈硬化抑制

  • 血管内皮機能の改善

  • 酸化ストレスの抑制

  • 交感神経活性の低下

これらが相乗的に作用し、血管抵抗を下げることで収縮期・拡張期血圧を改善します[2]。

3. 体重減少・インスリン抵抗性改善

  • 平均2〜3kgの体重減少

  • インスリン抵抗性の改善により、交感神経の過剰刺激が軽減される

エビデンスに見る高血圧への効果 — 数字で見る注目研究

EMPA-REG OUTCOME試験

  • エンパグリフロジン群では、ベースラインに比べて収縮期血圧が平均4mmHg低下[3]

  • 心血管死を38%減少、心不全入院を35%減少

DAPA-HF試験

  • ダパグリフロジン群で血圧が平均3.1mmHg低下[4]

  • 高血圧既往の有無に関わらず、心不全患者の予後を改善

DECLARE-TIMI 58試験

  • SGLT2阻害薬群で、収縮期血圧の有意な低下(−2.7mmHg)[5]

  • 心血管イベント抑制効果も明確

メタ解析(Zhao et al., 2021)

  • 43のRCTを統合した結果、SGLT2阻害薬は平均3.8mmHgの収縮期血圧低下、1.5mmHgの拡張期血圧低下を示す[6]

SGLT2阻害薬の安全性と注意点 — 高血圧治療への導入は?

安全性プロファイル

  • 重篤な低血圧はまれ(ナトリウム喪失は軽度)

  • 腎機能がある程度保たれていれば安全に使用可

  • 低血糖のリスクは低く、非糖尿病患者にも使用可能(心不全・CKD適応)

注意すべき副作用

  • 脱水、尿路感染症、外陰部感染症

  • 高齢者や利尿薬併用中では脱水に注意

ガイドラインでの立ち位置

  • JSH 2024では糖尿病・心不全患者の降圧薬選択のひとつとして言及

  • 日本循環器学会/JDS/日本腎臓学会の共同声明では、高血圧治療にも波及的に有用性があると報告[1][7]

当院でのサポート

 

当院では、糖尿病・心不全・腎機能障害・高血圧のいずれの患者さんにも、SGLT2阻害薬の特性を活かした治療戦略を提供しています。

1. 複合疾患に対応した個別最適治療

  • 糖尿病・高血圧・CKD・心不全を併せ持つ方に対し、SGLT2阻害薬の導入を積極的に検討

  • 体重や血圧、eGFR、HbA1cなどを多面的に評価し、導入可否を判断

2. 安全性の確保

  • 初期投与前に脱水・尿路感染症のリスクを評価

  • 利尿薬の併用や、夏場の服薬調整も丁寧にフォロー

  • 高齢者でも無理なく使えるよう、少量開始・経過観察を徹底

3. 高血圧管理の中での位置づけ

  • 通常の降圧薬(ARB、Ca拮抗薬)との併用可

  • 心不全・CKD合併例では、むしろ第一選択薬になりつつある

4. 継続的なフォローアップ

  • 定期的な血液検査(腎機能・電解質)

  • 血圧・体重・血糖値のモニタリング

  • 専門医による生活指導とあわせて、生活習慣からのアプローチも実施


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献

[1] 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(JSH 2024). 2024.
[2] Heerspink HJL, et al. SGLT2 inhibitors in the treatment of cardiovascular disease: mechanisms and clinical applications. Nat Rev Cardiol. 2021;18:465–485.
[3] Zinman B, et al. Empagliflozin, cardiovascular outcomes, and mortality in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2015;373:2117–2128.
[4] McMurray JJ, et al. Dapagliflozin in patients with heart failure and reduced ejection fraction. N Engl J Med. 2019;381:1995–2008.
[5] Wiviott SD, et al. Dapagliflozin and cardiovascular outcomes in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2019;380:347–357.
[6] Zhao Y, et al. Effects of SGLT2 inhibitors on blood pressure: a systematic review and meta-analysis. J Hypertens. 2021;39(5):899–909.
[7] 日本循環器学会・日本糖尿病学会・日本腎臓学会. SGLT2阻害薬の使用に関する合同声明. 2021.

 

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