「家庭血圧」の重要性と早期高血圧の見逃しについて

家庭血圧とは何か — 医療現場が注目する理由

家庭血圧とは、病院や診療所ではなく、自宅でリラックスした状態で測定される血圧のことを指します。従来、診察室血圧が高血圧診断の基準とされてきましたが、近年では"仮面高血圧"や"白衣高血圧"といった診察時の数値だけでは判断できないケースが増加し、家庭血圧の重要性が高まっています。

学会ガイドラインの最新見解

2024年の「日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン(JSH 2024)」では、家庭血圧が診断と治療効果判定において最も信頼性の高い方法と明記され、特に朝の家庭血圧の平均値が135/85mmHg以上であれば高血圧と診断されると示されています[1]。

家庭血圧の新規性と独自性

  • 連続した測定が可能:毎朝・毎晩など、繰り返し測定することで変動パターンが分かります。

  • 白衣高血圧や仮面高血圧の発見:診察室血圧と家庭血圧の乖離から見抜けます。

  • 早期発見のツール:自覚症状のない高血圧を見逃さずに捉えることができます。

  • 日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン

早期高血圧の見逃し — “仮面高血圧”のリスク

診察時の血圧が正常でも、家庭で測定すると高い数値を示す状態を「仮面高血圧」と呼びます。これは心血管リスクが高く、脳卒中や心筋梗塞の発症率が通常の高血圧よりも高いとされており、特に注意が必要です。

具体的データ

  • 仮面高血圧は一般人口の**10〜20%**に見られます[2]。

  • 仮面高血圧の患者では、脳卒中発症リスクが約2倍に増加するとの報告があります(Verdecchia et al., 2002)[3]。

なぜ見逃されるのか?

家庭血圧測定の正しい方法と注意点

測定の基本

  • 朝:起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前、安静な状態で座位にて測定

  • 夜:就寝前、入浴・飲酒・運動後は避ける

  • 各回2回以上測定し、平均を記録

測定機器の選び方

  • 上腕式自動血圧計が推奨(日本高血圧学会認定マーク付き)

  • 手首式や指式は誤差が大きく、推奨されません

安全性について

  • 家庭血圧測定は非侵襲的かつ安全で、副作用もなく、繰り返し使用が可能な信頼性の高い方法です。

家庭血圧が導く早期診断と治療の意義

早期診断のメリット

  • 心筋梗塞、脳卒中、慢性腎臓病(CKD)の予防

  • 糖尿病や脂質異常症との合併症管理が容易に

  • 薬物療法の適正化(過剰投与や不足の防止)

治療介入のタイミング

  • JSH 2024では、家庭血圧が135/85mmHgを超える場合、生活習慣改善とともに薬物治療を検討するよう記載されています。

  • 家庭血圧によっては、診察室血圧が正常でも治療対象となることがあります[1]。

数値で見る改善効果

  • 収縮期血圧を10mmHg下げることで、脳卒中リスクが約30%、冠動脈疾患リスクが約20%低下するとされています[4]。

当院でのサポート

 

当院では、家庭血圧の重要性をふまえ、以下のようなサポート体制を整えています。

家庭血圧モニタリング支援

  • 血圧計の選び方や使用方法の丁寧な指導

  • 家庭血圧記録ノートまたはアプリでの数値管理

  • 医師との数値共有によるパーソナライズ治療

仮面高血圧の早期発見

  • 診察室血圧と家庭血圧のギャップに注目し、精密検査を実施

  • 血圧パターンに基づいた24時間血圧測定(ABPM)の導入

専門医による治療戦略

  • 日本高血圧学会ガイドラインに準拠した治療

  • 糖尿病や腎機能障害を合併する方への総合的治療

  • 継続フォローによるリスク最小化

患者との協働

  • 生活指導、減塩指導、運動指導の実施

  • 患者さん一人ひとりに寄り添った治療方針


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献

[1] 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(JSH 2024). 2024.
[2] Franklin SS, et al. Masked hypertension: understanding its complexity. Eur Heart J. 2017;38(15):1112–1118.
[3] Verdecchia P, et al. Prognostic significance of the white coat effect. Hypertension. 2002;40(5):529-534.
[4] Law MR, et al. Value of low dose combination treatment with blood pressure lowering drugs: meta-analysis of 354 randomised trials. BMJ. 2003;326(7404):1427.

 

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