妊娠中や妊活のバセドウ病の治療薬はメルカゾールよりプロパジール?

妊娠とバセドウ病の基本知識

妊娠中または妊活中の女性において、バセドウ病(Graves病)は適切な管理が不可欠です。バセドウ病は自己免疫性の甲状腺疾患で、抗TSH受容体抗体(TRAb)によって甲状腺が刺激され、過剰な甲状腺ホルモンが産生される疾患です。

妊娠中の甲状腺ホルモンの過剰は、胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性があります。具体的には、流産、早産、胎児発育不全、妊娠高血圧症候群、胎児甲状腺機能亢進症などが報告されています(De Groot L et al., Endocr Rev. 2012)。

また、バセドウ病の女性が妊娠を希望する場合、妊活開始前からの甲状腺機能のコントロールが重要です。甲状腺機能の異常が排卵障害や月経不順を引き起こすため、妊娠率の低下にもつながることが知られています。

バセドウ病の症状をチェックしよう!

治療薬の選択肢と妊娠における注意点

バセドウ病の治療薬には主に以下の2種類があります:

  • メチマゾール(MMI、商品名:メルカゾール)

  • プロピルチオウラシル(PTU、商品名:プロパジール)

メルカゾールは強力で持続的な効果を持つ一方、プロパジールは肝機能障害のリスクが相対的に高いとされています。

しかし、妊娠初期においては、メルカゾールは胎児奇形(無耳症、気管・食道閉鎖など)との関連が報告されており、プロパジールへの切り替えが推奨されています

ガイドラインの推奨:

  • 日本内分泌学会(2023年版):妊娠初期(〜妊娠12週)にはPTUを選択し、妊娠中期以降はMMIに切り替えることが推奨されています。

  • American Thyroid Association (ATA, 2017):同様に、妊娠初期にはPTUを、妊娠13週以降はMMIへの切り替えが望ましいとしています。

胎児奇形発生率(参考データ):

  • メチマゾール関連奇形:2〜4%(Cooper DS. N Engl J Med. 2005)

  • プロパジール関連奇形:1%未満(同上)

  • プロパジールの重篤な肝障害:0.1〜0.2%(Rivkees SA et al., J Clin Endocrinol Metab. 2009)

なぜプロパジールが妊娠初期に選ばれるのか

プロパジールはMMIよりも胎児奇形のリスクが低いため、妊娠初期の薬剤として第一選択になります。特に妊娠6〜10週は胎児器官形成期であり、この期間のMMI使用はリスクが高いとされます。

ただし、PTUにも肝障害という重大な副作用があります。そのため、妊娠13週以降、器官形成期を過ぎた時点で、MMIに切り替えるのが推奨されるのです。このような薬剤の適切な切り替えは、母体と胎児の両方を守るうえで極めて重要です。

最新の研究知見:

2021年の日本甲状腺学会報告によれば、妊娠初期におけるPTUの安全性は引き続き支持されており、MMIの代替薬としての使用が推奨されています。一方で、妊娠前からの適切な計画妊娠と、医師との連携が成功のカギを握ります。

妊活中〜妊娠中のバセドウ病管理の新たな視点と当院の独自性

妊活中の女性に対するバセドウ病治療は、単なる薬剤選択にとどまりません。当院では以下のような総合的アプローチを実施しています:

1. 妊娠計画に合わせた治療戦略

  • 妊娠予定の6か月以上前からのホルモン値最適化

  • 妊娠判明時点での迅速なPTU切り替え

2. TRAbのモニタリング

  • TRAbが高い場合、胎児甲状腺機能異常のリスクあり(Lazarus JH. Clin Endocrinol (Oxf). 2012)

  • 当院では妊娠中3回のTRAbチェックを推奨

3. エコーによる胎児甲状腺モニタリング

  • 胎児甲状腺腫や頻脈の早期発見

4. 妊娠中のT4とTSHの厳密な管理

  • Free T4を妊娠週数に合わせて調整(Momotani N et al., J Clin Endocrinol Metab. 1997)

当院でのサポート

 

当院では、妊活中・妊娠中のバセドウ病管理を専門的にサポートしています。

  • 日本内分泌学会の最新ガイドラインに基づく治療

  • 妊娠週数に応じた薬剤の適切な選択と切り替え

  • 妊婦健診や産婦人科と連携したチーム医療

  • TRAb測定、胎児エコーのタイミングサポート

  • 甲状腺ホルモンの調整と日常生活へのアドバイス

妊娠を望むすべての女性に、安全で安心な医療を提供できるよう、スタッフ一同で取り組んでおります。お気軽にご相談ください。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

 

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