なぜ甲状腺疾患の方は市販薬に注意が必要なのか?

甲状腺は全身の代謝を調整する重要な臓器です。甲状腺ホルモンの分泌が多すぎる(甲状腺機能亢進症)または少なすぎる(甲状腺機能低下症)と、さまざまな薬の吸収・代謝・作用に影響を及ぼします。
特に、市販薬に含まれる成分の中には、甲状腺に直接作用するものや、自律神経を刺激して症状を悪化させるものが含まれているため、注意が必要です。
かぜ薬・総合感冒薬に含まれる注意成分
よく含まれる成分と注意点:
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プソイドエフェドリン(交感神経刺激薬)
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鼻づまり改善のために使用されますが、心拍数上昇や不整脈を引き起こす可能性があり、バセドウ病患者では禁忌または慎重投与が推奨されています(日本甲状腺学会ガイドライン2023年改訂)。
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ヨウ素含有成分(うがい薬・ドロップなど)
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ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料ですが、過剰摂取は橋本病やバセドウ病の発症・悪化に関与することがあります(Leung AM et al., Thyroid. 2015)。
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アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)
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一般的には安全とされますが、肝機能障害を伴うバセドウ病患者では慎重に使用する必要があります。
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実際の症例:
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甲状腺機能亢進症の患者がプソイドエフェドリン含有薬を服用後に頻脈と動悸を訴え、緊急受診した例が国内で報告されています(日本内科学会雑誌, 2020)。
花粉症薬・抗アレルギー薬の注意点
抗ヒスタミン薬の分類と影響:
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第一世代抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンなど):
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強い眠気・抗コリン作用あり、甲状腺機能低下症では代謝が遅れやすく、副作用が強く出ることも。
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第二世代抗ヒスタミン薬(フェキソフェナジン、ロラタジンなど):
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比較的安全だが、代謝経路に肝機能や腎機能が関与するため、甲状腺疾患による合併症がある方は注意が必要。
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点鼻薬や点眼薬に含まれる交感神経刺激成分も注意
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ナファゾリン塩酸塩などは、甲状腺機能亢進症の方では心拍数や血圧に影響する可能性あり(ATA Guidelines, 2017)。
頭痛薬・鎮痛薬の選び方と注意点

NSAIDs(ロキソニン、イブプロフェンなど)
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バセドウ病の合併症である甲状腺炎や眼症(甲状腺眼症)では、NSAIDsが有用な場合もあるが、消化管障害や腎障害のリスクもあるため、高齢者や多剤併用の方は注意が必要です(Wiersinga WM. N Engl J Med. 2017)。
アセトアミノフェンの使い分け
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比較的安全とされるが、重度の機能低下症や肝機能障害例では、減量投与や医師の判断が望ましい。
漢方薬(葛根湯など)
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一部の漢方薬にはエフェドリン様作用をもつ生薬が含まれており、バセドウ病では動悸や発汗を誘発するリスクあり。
当院でのサポート

当院では、甲状腺疾患の患者さまが安心して市販薬や日常的な薬を使えるように、個別相談や注意喚起を徹底しています。
【1】市販薬を含めた薬剤歴チェック
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初診・再診時に、市販薬・健康食品・サプリも確認します。
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専門的な薬剤知識に基づき、相互作用や禁忌をチェック。
【2】「飲んでいい薬・避けるべき薬」リストの提供
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バセドウ病・橋本病それぞれに応じた市販薬リストをオリジナルでご用意。
【3】薬剤師・登録販売者への情報提供も推進
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地域薬局と連携し、甲状腺疾患を持つ患者への対応体制を強化。
【4】相談しやすい診療体制
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LINEやWEB問診などで、事前に服薬相談も可能です。
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「ちょっと風邪を引いたけど、市販薬を飲んでいいか不安」という相談に丁寧に対応します。
患者さまが日常生活の中で安心して過ごせるよう、私たちは細やかな情報提供と安全管理を心がけています。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。