甲状腺疾患の疫学とは? 〜日本および世界の現状〜

甲状腺疾患は、内分泌疾患の中でも特に頻度が高く、性別・年齢・地域によって有病率に大きな差があることが知られています。
日本における有病率(2020年厚労省調査)
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甲状腺機能亢進症(主にバセドウ病):人口10万人あたり100〜300人
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甲状腺機能低下症(主に橋本病):女性の10人に1人が生涯に一度は診断される
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甲状腺腫瘍(良性・悪性含む):超音波検査での偶発的な結節の発見率は30〜60%(Ito Y. et al., Endocr J. 2018)
世界的な動向
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WHOによると、甲状腺疾患は世界の人口の約5%が何らかの形で罹患していると推定(WHO, 2017)
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特に女性に多く、男女比はおよそ1:5で女性に多発
年齢別の発症傾向と世代別の特徴
甲状腺疾患は全年齢で発症しうるものの、以下のような傾向があります:
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
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発症年齢ピーク:20〜40代の女性
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思春期に発症するケースもあり、若年発症例では再発率が高い
橋本病(甲状腺機能低下症)
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発症年齢:30〜60代の女性に多い
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閉経期以降の女性に特に多く、倦怠感やうつ症状と間違われやすい
甲状腺結節・がん
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40歳以降での発見が多く、検診や画像検査の普及で偶発的に発見される症例が増加
小児・高齢者では?
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小児では低身長や学習障害、高齢者では認知症様症状で気づかれることがある(Biondi B. et al., Lancet Diabetes Endocrinol. 2015)
過去から現在までの推移と検査精度の向上
過去(1970〜2000年代)
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主に症状ベースでの診断が中心で、見逃されるケースも多かった
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ヨウ素摂取過多・不足が地域差を生みやすかった
現在(2010年以降)
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超音波検査・甲状腺ホルモン測定の普及により、早期発見・軽症例の検出が増加
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検診や人間ドックによる“偶発結節”の発見が増加
数字で見る推移
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甲状腺機能異常の検出率:1980年代は人口1%以下 → 2020年には約3〜5%へ
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結節の発見率:40歳以上で30%を超える報告も(Matsuzuka F. et al., J Clin Endocrinol Metab. 2011)
今後の展望と将来予測 〜高齢化・女性の健康・AI診断〜

高齢化社会と甲状腺疾患
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高齢化により、橋本病や甲状腺機能低下症の有病率は今後さらに増加すると予想
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認知機能との関連が注目され、介護・高齢者医療の分野での関心も高まっている
女性特有のライフステージ(妊活・妊娠・閉経)
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妊活中・妊娠中の甲状腺機能異常は、流産・早産・胎児発育異常のリスク
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女性ホルモンとの相互作用が解明されつつあり、予防的アプローチが検討されている
将来の予測:AIによる診断補助
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超音波画像のAI解析や、ホルモン値・抗体値のパターン認識による自動診断が研究段階に(Yoon JH et al., Sci Rep. 2020)
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2025年以降、AIと医師の協働によるスクリーニング精度の向上が期待
当院でのサポート

当院では、甲状腺疾患の診療において年齢・性別・ライフステージに合わせたきめ細かな診療を行っています。
【1】年齢別リスクを踏まえたスクリーニング
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20〜30代女性:バセドウ病の早期診断と再発予防
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40〜60代女性:橋本病のスクリーニングと自覚症状の把握
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65歳以上:機能低下症・潜在性異常のフォロー
【2】妊活・妊娠中のホルモン管理
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妊娠計画中からのTSH・FT4モニタリング
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TRAb測定と産科との連携
【3】高精度検査とAI導入の準備
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最新のホルモン検査機器による精密測定
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エコー所見のデータ化と将来的なAI診断支援に対応
甲状腺疾患は“気づきにくく、見逃されやすい”疾患です。 当院では一人ひとりのライフステージに寄り添いながら、安心できる医療を提供しています。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。