糖尿病患者が市販の風邪薬を使用する際に気をつけるべき理由

糖尿病は、血糖コントロールの乱れによって全身の代謝や免疫、循環に影響を与える慢性疾患です。風邪をひいた際、市販の総合感冒薬を使う患者も多い一方で、糖尿病のある方が風邪薬を選ぶ際には、特別な注意が必要です。
主な理由:
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血糖値への影響を及ぼす成分が含まれている
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腎機能や肝機能への負担が大きい薬がある
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糖尿病薬との相互作用による副作用リスク
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血糖値上昇に気づかれず感染症の重症化を招くケース
風邪そのものが血糖を上昇させやすい中、市販薬の選び方によっては状態を悪化させてしまう可能性があります。
風邪薬に含まれる主な成分と糖尿病との関連性
市販の風邪薬には、解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、咳止め、去痰剤、交感神経刺激薬などが含まれており、糖尿病に影響を及ぼす成分もあります。
【注意すべき成分とその理由】
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プソイドエフェドリン(交感神経刺激薬)
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血管収縮作用があり、血圧上昇・心拍数上昇・血糖値上昇を招く可能性。
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糖尿病性自律神経障害を持つ患者では、急激な心拍増加を招くリスクも。
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(参考:Minges KE et al., Diabetes Care. 2012)
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アセトアミノフェン(解熱鎮痛)
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比較的安全とされるが、高用量では肝機能障害のリスクあり。
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糖尿病性脂肪肝がある患者は特に注意。
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第一世代抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンなど)
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強い眠気と口渇を誘発。脱水や高血糖を誘発する可能性あり。
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糖分入りのシロップ薬
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一部の市販薬にはブドウ糖や果糖などが多く含まれており、血糖値上昇に直結。
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学会の見解・ガイドラインと最新研究
【日本糖尿病学会の見解(2023年改訂)】
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市販薬の使用について明確な禁忌リストはないが、「血糖コントロールに悪影響を及ぼす可能性のある成分の摂取は避けること」と明記。
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特に感染時には血糖モニタリングを強化し、薬剤の内容確認を推奨。
【海外の最新研究】
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米国ADA(American Diabetes Association)のガイドラインでは、風邪薬使用時の血糖変動への注意と、CGM(持続血糖モニタリング)の活用を提唱(ADA Guidelines, 2022)。
【数字で見る影響】
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感冒時に血糖が200mg/dLを超える患者の割合:約40%(Lin YS et al., J Diabetes Complications. 2020)
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プソイドエフェドリン使用者で一時的な高血糖を認めた割合:最大で58%(Minges KE et al., 2012)
糖尿病患者における「安全な市販薬選び」と代替手段

【比較的安全な成分】
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アセトアミノフェン(低用量):解熱鎮痛に使用可(1日2000mg以下)
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第二世代抗ヒスタミン薬(フェキソフェナジンなど):眠気が少なく、血糖への影響も軽微
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糖分を含まない錠剤・カプセル剤の選択:シロップ剤を避ける
【避けるべき薬剤】
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「眠気の強い総合感冒薬」
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「糖分を多く含む風邪シロップ」
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「交感神経刺激薬入りの鼻炎薬」
【代替手段としての対応】
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加湿・水分補給・休息の徹底
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ビタミンCや亜鉛の補充(エビデンスは限定的ながら安全性は高い)
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医師とのオンライン相談・LINEなどを活用した早期対応
当院でのサポート

当院では、糖尿病患者さまが風邪をひいた際、安心して治療や市販薬の選択ができるようサポートしています。
【1】服薬相談の徹底
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市販薬の成分チェック、手元にある薬の持参相談も歓迎
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風邪の初期症状時点でのオンラインまたはLINEでの相談対応
【2】当院作成の「糖尿病患者のための風邪薬ガイド」配布
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市販薬の選び方を成分別にわかりやすく一覧化
【3】風邪時の血糖管理サポート
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感染時の血糖変動の傾向に合わせたインスリン調整提案
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CGM(リブレ・Dexcom)使用者へのリモートフォローアップ
【4】薬局連携による地域サポート
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近隣薬局と情報を共有し、糖尿病患者への適切なOTC薬提供体制を構築
体調不良の時こそ、自己判断ではなく、安心して相談できるかかりつけ医を持つことが大切です。当院では一人ひとりの背景に合わせた、きめ細かなサポートを提供しています。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。