非肥満型高血圧とは? — “やせているのに高血圧”の謎

高血圧といえば「太っている人に多い病気」と考えられがちですが、近年の研究では、**BMIが正常あるいは低体重であるにもかかわらず高血圧を発症する「非肥満型高血圧」**が、特にアジア人に多く見られることが分かってきました。
非肥満型高血圧の定義
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BMI25未満でありながら、診察室血圧が140/90mmHg以上または家庭血圧で135/85mmHg以上の持続
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特に20〜50代のやせ型男性や閉経後の女性に多く報告されています[1]
日本高血圧学会(JSH 2024)の見解
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「非肥満型高血圧」は**アジア人に特有の病態であり、見逃されやすく、注意が必要な新しい高血圧表現型」として位置づけ[2]
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肥満がないために医師も患者も油断しやすく、診断・治療が遅れがちであることが問題視されています
なぜアジア人に多いのか? — 遺伝と環境の相互作用
1. アジア人特有の体質的要因
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アジア人は内臓脂肪の蓄積が少なくてもインスリン抵抗性を起こしやすいという体質的背景を持つ[3]
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腎臓のナトリウム再吸収機能が欧米人より高く、塩分感受性が高いため、食塩の摂取が血圧に与える影響が大きい
2. 食生活と環境要因
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白米中心の高炭水化物・低カリウム食
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発酵食品(漬物・味噌・醤油)による塩分過多
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忙しいライフスタイルに起因する睡眠不足・ストレス
3. ホルモンと加齢の影響
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閉経後女性では女性ホルモン低下による血管弾性の低下とレニン・アンジオテンシン系活性化が背景に[4]
非肥満型高血圧のリスクと予後 — 見た目ではわからない危険性
非肥満型高血圧は見た目では健康そうに見えるため、発見が遅れることが多く、その結果、以下のようなリスクに直結します。
主な合併症とリスク
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心肥大、心不全、心筋梗塞などの心疾患リスク増加
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脳卒中リスクは、肥満型高血圧と同程度(またはそれ以上)
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腎機能障害や蛋白尿の出現率が高い
数値で見る非肥満型高血圧の脅威
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日本人成人の高血圧患者の約30〜35%が非肥満型と推定される[5]
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収縮期血圧が10mmHg高いと、心血管疾患のリスクが約20〜30%上昇[6]
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BMIが22以下でも、家庭血圧135/85以上の場合の脳卒中リスクはBMI25以上と同等[7]
新規性と独自性
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従来の「メタボ型高血圧」の枠に収まらない新しい病態である点が注目されている
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血管老化や腎機能の評価を含めた総合的な視点が必要
診断と治療のポイント — 見逃さない・放置しない

診断の工夫
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家庭血圧の定期測定が最重要(診察室では正常な「仮面高血圧」が多いため)
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**24時間血圧測定(ABPM)**で夜間血圧・早朝高血圧も評価
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必要に応じて**腎機能・ホルモン異常(副腎疾患など)**の除外も
治療方針
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初期は非薬物療法(食事・運動・減塩)を徹底
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高ナトリウム・低カリウムの食生活を修正
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ARB・Ca拮抗薬など副作用が少なく持続作用のある薬剤を選択
安全性と個別化の重要性
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非肥満型高血圧患者は降圧剤への反応が過敏なケースもあるため、慎重な投与が求められる
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心拍数や立ちくらみなどの副作用にも配慮が必要
早期診断・治療の意義
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「若くてやせている=安心」ではなく、早期に介入することで心血管イベントの予防が可能
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ABPMや家庭血圧による長期モニタリングの継続が鍵
当院でのサポート

蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニックでは、アジア人に特有の非肥満型高血圧の診断・管理に力を入れています。
1. 詳細な評価体制
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初診から家庭血圧・ABPM・血液検査を組み合わせたトータル評価
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腎機能・電解質バランス・副腎ホルモンなどの精査
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仮面高血圧や夜間高血圧の早期発見
2. 管理栄養士による食生活の見直し
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塩分過多とカリウム不足の是正を個別指導
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DASH食や減塩+高カリウムレシピの提案
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外食が多い方へのメニューアドバイス
3. 運動・睡眠・ストレス管理の支援
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有酸素運動・筋力トレーニングの導入支援
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睡眠障害の評価と改善プラン
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自律神経バランスを整える生活習慣改善指導
4. 若年層・やせ型患者にも安心の治療方針
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少量・長時間作用型の薬剤を選定
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女性ホルモンや甲状腺との関連性も評価
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長期的フォローと患者教育を重視
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。
引用文献
[1] Okamura T, et al. Epidemiology of hypertension in Asia. Circ Res. 2021;128(7):989-1003.
[2] 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(JSH 2024). 2024.
[3] Yajnik CS. The insulin resistance epidemic in India: fetal origins, later lifestyle, or both? Nutr Rev. 2001;59(1 Pt 1):1-9.
[4] Rossi GP, et al. The endocrine hypertension: diagnostic and therapeutic advances. J Hypertens. 2017;35(2):249-259.
[5] Ueshima H, et al. Cardiovascular disease and risk factors in Asia: a selected review. Circulation. 2008;118(25):2702-2709.
[6] Lawes CM, et al. Blood pressure and the global burden of disease 2000. Part II: estimates of attributable burden. J Hypertens. 2006;24(3):423–430.
[7] Kario K, et al. Morning surge in blood pressure as a predictor of silent and clinical cerebrovascular disease in elderly hypertensives. Circulation. 2003;107(10):1401–1406.