サルコペニアと尿酸の意外な関係(抗酸化ストレスとの関連)について

サルコペニアとは?— 加齢とともに進行する“筋肉の減少”

サルコペニアは、加齢や慢性疾患などに伴う骨格筋量と筋力の低下を指す概念です。筋肉の減少は、転倒・骨折・フレイルのリスクを高め、要介護や死亡率の上昇とも関連しています。

診断基準(日本サルコペニア・フレイル学会2020)

  • 筋肉量の減少(DXAまたはBIA測定)

  • 筋力低下(握力:男性<28kg、女性<18kg)

  • 歩行速度低下(<1.0m/s)

加齢だけでなく、糖尿病・慢性腎臓病・炎症性疾患などの合併でも進行が早まります。

尿酸と抗酸化作用—なぜ「高いほど悪い」とは限らない?

尿酸は、プリン体代謝の最終産物であり、長年「痛風の原因」として悪者扱いされてきましたが、強力な抗酸化物質としての側面にも注目が集まっています。

尿酸の抗酸化作用

  • 血中のフリーラジカル(活性酸素)を中和する力が非常に強い

  • ビタミンCに次ぐ血漿中抗酸化物質として働く

  • 酸化ストレスによる細胞障害・筋肉障害の抑制が期待される[1]

低尿酸血症のリスク

  • 尿酸値が3.0mg/dL未満の場合、抗酸化防御が弱まり

    • 筋力の低下

    • フレイルの進行

    • 神経変性疾患リスクの上昇が報告されている[2]

サルコペニアと尿酸の関連を示す最新研究

観察研究・疫学データ

  • 台湾の高齢者を対象とした研究では、血清尿酸値が適度に高い群(5.5〜7.0mg/dL)でサルコペニアの有病率が最も低いことが判明[3]

  • 日本の前向き研究でも、尿酸値がやや高い群の方が筋肉量の維持が良好という結果[4]

メカニズムの仮説

  • 適正な尿酸値が筋細胞内の酸化ストレスを抑制

  • 炎症性サイトカインの抑制(IL-6、TNF-α)

  • 筋合成経路(mTOR)を刺激する可能性

では、どの尿酸値が“良い”のか?個別最適化のすすめ

一般的な基準値

  • 男性:3.5〜7.0mg/dL

  • 女性:2.5〜6.0mg/dL(閉経後はやや上昇)

サルコペニア予防観点からの最適値

  • 5.0〜6.5mg/dLが抗酸化と代謝安定のバランスが良いという意見も

  • ただし、7.0mg/dLを超えると痛風・腎機能障害のリスクが顕著に増加

重要なのは「適正域の維持」

  • 尿酸値を下げすぎても、上げすぎてもリスクがある

  • 高齢者・サルコペニアリスク群では過度な尿酸低下を避ける視点が必要

当院でのサポート

 

当院では、尿酸値と筋肉量・栄養状態のバランスを考慮した包括的な診療を行っています。

1. 尿酸値と筋量の同時評価

  • BIAによる筋肉量の定量化(InBody等)

  • 尿酸・腎機能・炎症マーカー・アルブミンなどの血液検査を組み合わせた評価

2. 過度な尿酸低下への配慮

  • 痛風既往や腎障害がない高齢者では慎重な尿酸降下療法を実施

  • サルコペニアのある方では生活改善を中心とした治療方針も提案

3. 栄養・運動支援の強化

  • 管理栄養士によるタンパク質摂取量・BCAA・ビタミンDの評価と指導

  • スロートレーニング・レジスタンストレーニングの提案

  • 尿酸を安定させる**水分摂取・代謝改善(減酒・食習慣)**のアドバイス


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献

[1] Ames BN, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1981;78(11):6858–6862.
[2] Choi HK, et al. Am J Epidemiol. 2005;161(5):431–438.
[3] Huang YC, et al. BMC Geriatrics. 2020;20(1):1–8.
[4] Kim TN, et al. Age Ageing. 2014;43(1):123–129.

 

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