スタチン不耐症に対する新薬の選択肢(Inclisiranなど)について

スタチン不耐症とは?— コレステロール治療の壁となる副作用

スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、LDLコレステロール(LDL-C)を低下させる最も基本的な薬剤ですが、一部の患者では副作用によって継続が困難なケースがあります。これを「スタチン不耐症」と呼びます。

不耐症の定義

  • **筋肉痛・脱力感(筋障害)**が最も多く、血中CK上昇を伴うことも

  • 胃腸症状、肝酵素上昇、頭痛、倦怠感などの報告も

  • ガイドラインでは「1種類以上のスタチンを適正用量で使用し、副作用で中止せざるを得ない状態」[1]

発症頻度と問題点

  • 日本では3〜5%程度がスタチン不耐症とされるが、高齢者や多剤併用の患者ではもっと多い可能性あり[2]

  • LDL-Cを十分に下げられず、心血管イベントの予防が困難に

従来の代替治療とその限界

エゼチミブ

  • 小腸でのコレステロール吸収を抑制する薬剤

  • LDL-Cを約15〜20%低下可能

  • スタチン併用では強力だが、単独では不十分な場合も多い

レジン(陰イオン交換樹脂)

  • コレステロールの腸管再吸収をブロック

  • 服用量が多く、便秘や膨満感などの副作用も

サプリメント・食事療法

  • EPA・食物繊維・植物ステロールなどによる補助療法

  • 根本的なLDL-C管理には限界がある

Inclisiran(インクリシラン)と次世代治療の登場

Inclisiranとは?

  • siRNA(小干渉RNA)製剤で、PCSK9の合成を根本から抑制

  • 肝細胞でのLDL受容体分解を防ぎ、LDL-Cを強力に低下

  • 投与頻度:半年に1回の皮下注射

効果と安全性

  • LDL-Cを約50%低下(ORION-10/11試験)[3]

  • 筋障害の副作用はほぼ報告されておらず、スタチン不耐症患者に安全

  • 肝機能障害や免疫系の副作用も極めて少ない

欧米での評価と承認

  • EMA(欧州医薬品庁)およびFDA(米国食品医薬品局)ですでに承認済み

  • 日本でも2025年前後の導入が期待されている

その他の新しい選択肢と併用療法

PCSK9阻害抗体(エボロクマブ、アリロクマブ)

  • LDL-Cを60%以上低下

  • 2週間または月1回の皮下注射

  • 心血管イベントの抑制効果も証明(FOURIER試験)[4]

Bempedoic acid(ベンペド酸)

  • 肝臓でのみ作用する新しい経口薬

  • スタチンと同様の経路だが筋肉で作用せず副作用が少ない

  • LDL-Cを15〜20%低下、エゼチミブとの併用でより有効[5]

インクレチン系薬剤やSGLT2阻害薬との併用

  • 糖尿病合併例では、心血管保護+脂質改善効果がある薬剤を組み合わせる

当院でのサポート

 

当院では、スタチン不耐症の方に対し、症状の背景を正確に見極め、新しい治療選択肢を提供しています。

1. 不耐症の診断と評価

  • 筋症状・肝酵素・甲状腺機能(TSH)・ビタミンD不足など多角的な原因分析

  • 適切なスタチンの選択や隔日投与での再挑戦も評価

2. 次世代薬の導入とモニタリング

  • エゼチミブやベンペド酸の安全な使い方を指導

  • PCSK9阻害薬やインクリシランの適応評価と導入準備

3. オーダーメイド治療の提供

  • 患者の希望や経済的負担も考慮しながら効果・安全性・継続性の最適解を提案

  • 専門医による脂質改善サポートや運動プログラムとの併用


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献

[1] Stroes ES, et al. Eur Heart J. 2015;36(17):1012–1022.
[2] Banach M, et al. Expert Opin Drug Saf. 2018;17(1):69–78.
[3] Ray KK, et al. Inclisiran in patients with high LDL cholesterol. N Engl J Med. 2020;382:1507–1519.
[4] Sabatine MS, et al. Evolocumab and clinical outcomes in patients with cardiovascular disease. N Engl J Med. 2017;376(18):1713–1722.
[5] Ballantyne CM, et al. N Engl J Med. 2023;388:2228–2239.

 

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