バセドウ病のTRAb測定法がより高精度になったことについて

TRAbとは何か?〜バセドウ病診断の鍵を握る自己抗体〜

TRAb(TSH receptor antibody:TSH受容体抗体)は、バセドウ病の診断と治療経過を評価する上で非常に重要な自己抗体です。TRAbがTSH受容体に結合することで、甲状腺が過剰に刺激され、甲状腺ホルモンが過剰に産生されます。これが、バセドウ病の主な病態となります。

TRAb測定の臨床的意義:

  • バセドウ病の診断確定に必要

  • 治療中の寛解予測や再発予測に役立つ

  • 妊娠中の管理や新生児への影響予測にも必須

日本甲状腺学会の最新ガイドライン(2023年改訂)では:

  • TRAb陽性であることが、バセドウ病診断の最重要マーカーと明記

  • 特に第3世代TRAb測定法の高感度・高特異度が推奨されています

第3世代TRAb測定法とは?〜高感度・高特異度の進化〜

第3世代TRAb測定法は、従来の方法と比較して感度・特異度ともに大幅に向上しています。これは、より少量の抗体でも検出が可能になり、偽陰性・偽陽性のリスクを減らすことに貢献しています。

測定法の進化:

  • 第1世代(RIA法):感度約70〜80%、特異度約90%

  • 第2世代(ELISA法):感度約85〜90%、特異度95%前後

  • 第3世代(ECLIA法など):感度95〜99%、特異度98〜100%

代表的な第3世代測定系:

  • Roche社のECLIA(Electrochemiluminescence Immunoassay)

  • Siemens社のIMMULITEシステム

臨床データ:

  • Kahaly GJ, et al. (J Clin Endocrinol Metab, 2018):第3世代TRAb測定により、**軽症例や部分寛解例でも高い検出率(感度98%)**が確認されている

  • 各種研究で、再発リスク予測精度が旧来法に比べ約30%向上

第3世代TRAbの臨床的有用性と活用の場面

第3世代TRAbは、単なる診断補助を超えて、バセドウ病のトータルマネジメントに有効です。

1. 初診時の診断:

  • 甲状腺ホルモン値が高いが、原因不明の場合 → TRAb測定でバセドウ病の診断が確定

  • 亜急性甲状腺炎など他疾患との鑑別にも有用

2. 治療中のモニタリング:

  • 抗甲状腺薬中止のタイミング判断に有効(TRAbが陰性化しているか)

  • 第3世代TRAbが1.0 IU/L未満になると、寛解の可能性が高いとする報告あり(Sugino K, Thyroid, 2017)

3. 妊娠時管理:

  • TRAb陽性の場合、胎児への甲状腺刺激リスクあり → 高リスク妊娠として管理

  • 第3世代TRAbは新生児バセドウ病のリスク予測にも高精度

安全性と早期診断の重要性

TRAb測定は、血液検査で簡便かつ非侵襲的に行える、安全性の高い検査です。

早期診断・治療の意義:

  • バセドウ病は放置すると心房細動、骨粗鬆症、精神症状など重篤な合併症を起こす可能性あり

  • 第3世代TRAbにより、発症初期の軽症例でも早期発見が可能

新たな可能性:

  • TRAbレベルと眼症の関連:TRAb高値の患者ほどバセドウ眼症を併発しやすいという報告もあり(Bartalena L, Eur Thyroid J, 2019)

  • **個別化医療(Precision Medicine)**として、TRAbレベルに基づく治療強度の調整が検討されている

ガイドラインにおける立場:

  • 日本内分泌学会・甲状腺学会ともに、第3世代TRAb測定を標準検査項目として推奨(2023年版)

当院でのサポート

 

当院では、甲状腺疾患に特化した専門的な診療体制のもと、最新の第3世代TRAb測定法を導入し、正確な診断と治療の質の向上に努めています。

当院のサポート体制:

  • 第3世代TRAb(ECLIA法)による迅速かつ高精度な診断

  • バセドウ病に精通した医師による個別治療方針の策定

  • 超音波検査・心電図・骨密度測定などによる合併症チェック体制

  • 妊娠希望・妊娠中の患者にも適切な指導と管理を提供

独自の特徴:

  • 院内での定期フォローアップ体制とTRAb経時変化の視覚化

  • 眼症合併例では専門眼科と連携し、多職種チームで対応

  • 患者一人ひとりの「治るかどうか」の不安に寄り添う診療

バセドウ病の診断と治療は、今や“見えない抗体”の変化を捉える時代。私たちは最新技術を活用しながら、安心と確信を提供する医療を実践しています。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献:

  1. Kahaly GJ, Diana T. "TSH receptor antibodies: relevance and measurement." J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(3):723–732.

  2. Sugino K, et al. "Predictive value of TRAb levels for remission in Graves' disease." Thyroid. 2017.

  3. Bartalena L, et al. "Relationship between TRAb and Graves' orbitopathy." Eur Thyroid J. 2019.

  4. 日本甲状腺学会・日本内分泌学会. 甲状腺疾患診療ガイドライン2023年度版.

 

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