メルカゾールと無顆粒球症について

メルカゾールとは何か ── バセドウ病治療の第一選択薬

メルカゾール(一般名:チアマゾール)は、甲状腺ホルモンの産生を抑制する抗甲状腺薬であり、特にバセドウ病(甲状腺機能亢進症)の治療において広く使用されています。チアマゾールは、ヨウ素の有機化およびカップリング反応を阻害することで、甲状腺ホルモン(T3、T4)の合成を抑制します。

主な適応症:

  • バセドウ病

  • 一部の亜急性甲状腺炎後の機能亢進期(補助療法として)

日本甲状腺学会のガイドライン(2023年改訂)によると:

  • 初期投与量は、病態の重症度により5〜30mg/日。

  • 中等症〜重症バセドウ病では10〜30mg/日の開始が推奨されています。

無顆粒球症とは ── 命に関わる副作用

メルカゾールの最も重大な副作用の一つが「無顆粒球症(agranulocytosis)」です。これは、白血球の中で重要な役割を持つ好中球が極端に減少し、感染症に対する抵抗力が著しく低下する状態です。

無顆粒球症の定義:

  • 顆粒球(好中球)が500/μL未満の状態

発症頻度とリスク:

  • 発症率:約0.1〜0.5%(Kahaly et al., 2018)

  • 発症時期:通常は治療開始後2ヶ月以内

主な症状:

  • 突然の高熱(38.5℃以上)

  • のどの痛み・嚥下困難

  • 全身倦怠感

  • 咽頭炎、口内炎、膿瘍などの感染症

最新ガイドラインと論文にみる知見

学会の対応(日本甲状腺学会・日本内科学会):

  • メルカゾール開始後2週間以内に定期的な血算検査(CBC)を推奨

  • 発熱・咽頭痛を訴えた場合は即時採血し、無顆粒球症の除外が必要

  • 無顆粒球症が疑われた場合、直ちに薬剤を中止し、広域抗菌薬およびG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)による治療を行う

海外の文献(Cooper, 2005; Ross et al., 2016)

  • 欧米ではPropylthiouracil(PTU)と比較してメルカゾールの方が一般的に好まれるが、無顆粒球症リスクが明確なため警戒が必要

新しい知見:

  • HLA遺伝子との関連が一部報告されており、HLA-B*38:02と無顆粒球症の相関が示唆されている(Chen et al., 2019)

安全性を高めるためにできること

服薬中の注意点:

  • 初期2ヶ月間は毎週血液検査が望ましい(少なくとも2週間に1回)

  • 高熱やのどの痛みがある場合、自己判断で放置せず、即時医療機関を受診

医師・患者間のコミュニケーション:

  • 「メルカゾール手帳」などを用いた服薬指導

  • 副作用に対する説明と、緊急時の対応策を事前に周知

データ提示:

  • 日本国内では、メルカゾールによる無顆粒球症の報告は年間約100〜200件(厚生労働省 副作用報告データベース 2022年)

当院でのサポート

 

当院では、メルカゾールを使用する患者様に対し、以下のような体制で安全管理とフォローアップを徹底しております。

  • 初回診察時にリスクと症状について丁寧に説明

  • 服薬開始後、1〜2週間ごとの血液検査を実施(最初の2ヶ月間)

  • 当院のLINEや電話での24時間体制の連絡窓口を整備

  • 緊急対応可能な近隣医療機関との連携体制

  • 必要に応じてG-CSFの緊急投与を含む入院施設への紹介体制も整備

患者様が安心して治療に臨めるよう、情報提供・安全対策・フォロー体制の三本柱でサポートしています。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

 

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