中性脂肪(トリグリセリド)とは?— 基本と高値の意味を整理

中性脂肪(トリグリセリド:TG)は、エネルギーの貯蔵形態として体内に存在する脂質です。食事から摂取された余剰なエネルギーが肝臓で合成され、血中に運ばれます。TGの役割自体は重要ですが、血中濃度が高すぎると健康リスクが急増します。
TGの基準値(日本動脈硬化学会ガイドライン2022)
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正常値:150 mg/dL未満
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軽度高値:150〜199 mg/dL
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中等度高値:200〜499 mg/dL
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高度高値:500 mg/dL以上(膵炎リスク)[1]
中性脂肪が膵炎と動脈硬化に及ぼす影響
急性膵炎のリスク
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TGが1,000mg/dLを超えると膵炎リスクが急増
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機序:高TGによるリポタンパク質の蓄積→膵臓毛細血管の閉塞・炎症反応誘発
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特に糖尿病やアルコール摂取、妊娠中はリスク増大[2]
動脈硬化との関連
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高TGはsmall dense LDL(sdLDL)やレムナントリポタンパク質の増加を誘導し、動脈硬化を促進
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TG自体は直接的なアテローム形成には関与しないが、動脈内皮機能障害・酸化ストレス増加を通じて間接的に寄与[3]
TGと心血管イベントリスク
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TG 200mg/dL以上では、心筋梗塞・脳梗塞などの動脈硬化性疾患リスクが1.5〜2倍に増加[4]
最近のガイドラインと研究動向 — “TGは放置できない脂質”へ
日本動脈硬化学会(JAS 2022)
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LDL-C管理に加え、non-HDL-CとTGの管理を重視
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特にTG 200mg/dL以上では治療介入を検討[1]
米国AHA/ACCガイドライン(2018)
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TG 500mg/dL以上では膵炎リスクに対応するための即時治療が必要
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TG 150〜499mg/dLでも、心血管リスク評価に応じて治療推奨[5]
REDUCE-IT試験(2018)
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TG 135〜499mg/dL、スタチン治療中の患者に対し、EPA製剤(イコサペントエチル)を投与
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心血管イベントを25%減少という成果[6]
高TGへのアプローチ — 食事・運動・薬物治療

食事療法
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糖質制限:単純糖質の摂取がTGを増加させる
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飽和脂肪酸の制限とオメガ3脂肪酸の摂取推奨(青魚・えごま油)
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アルコール制限:少量でもTGが上昇しやすい
運動療法
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有酸素運動(週150分以上)でTG 20〜30%低下可能
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減量(体重5%減)でTGは大幅に改善
薬物治療
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フィブラート系(ベザフィブラート、フェノフィブラート)
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高純度EPA製剤(イコサペント酸エチル)
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ニコチン酸誘導体、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬も有効例あり
数字で見る効果
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食事・運動療法でTGは平均15〜20%低下
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フィブラート系薬でTGが30〜50%低下[7]
当院でのサポート

当院では、TG高値が引き起こす疾患リスクに早期から対応し、膵炎や動脈硬化の予防を徹底しています。
1. 定期的な脂質検査とリスク評価
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LDL-C、HDL-C、non-HDL-C、TG、HbA1c、肝機能などを定期的に測定
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TG 150mg/dL以上の方には食事・生活習慣の徹底指導と必要な薬物療法を実施
2. 急性膵炎リスクへの対応
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TG 500mg/dL以上の方には即時の栄養療法+薬物治療を開始
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糖尿病・妊娠・肥満・アルコール習慣を持つ方には特に注意喚起
3. 高TG+糖尿病・甲状腺機能異常の統合管理
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SGLT2阻害薬やGLP-1作動薬による多角的治療戦略を採用
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甲状腺ホルモン異常による脂質異常(例:橋本病に伴う高TG)にも対応
4. 管理栄養士による食事サポート
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糖質・アルコール制限、オメガ3摂取強化を個別に指導
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LINEによる継続フォローアップ体制あり
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。
引用文献
[1] 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.
[2] Berglund L, et al. J Clin Lipidol. 2012;6(5):409–416.
[3] Nordestgaard BG, Varbo A. Lancet. 2014;384(9943):626–635.
[4] Miller M, et al. Circulation. 2011;123(20):2292–2333.
[5] Grundy SM, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73(24):e285–e350.
[6] Bhatt DL, et al. N Engl J Med. 2019;380:11–22.
[7] Davidson MH. Curr Atheroscler Rep. 2009;11(2):92–98.