亜鉛とは何か ─ 生命に不可欠な微量元素

亜鉛(Zinc)は、人体に必要不可欠な微量元素の一つであり、約300種類以上の酵素の構成要素として関与しています。免疫機能の維持、細胞分裂、創傷治癒、味覚や嗅覚の正常化、そしてDNA合成に至るまで、極めて多様な役割を担っています。
主な機能
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免疫機能の維持:亜鉛はT細胞の分化や成熟に必須
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酵素の構成要素:アルコール脱水素酵素など多くの酵素に関与
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皮膚・粘膜の健康維持
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味覚・嗅覚の正常化:味蕾の機能に関与
食品中の亜鉛含有量(100gあたり)
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牡蠣:約13mg
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牛赤身:約6mg
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チーズ:約3mg
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卵:約1.3mg
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豆類:約1~2mg
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、成人男性で1日11mg、女性で8mgの摂取が推奨されています。
亜鉛欠乏症の原因と症状
亜鉛欠乏症は、単純な栄養不足以外にも、吸収障害や薬剤性の影響などさまざまな原因によって引き起こされます。
主な原因
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偏った食生活(菜食中心、加工食品中心)
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消化器疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)
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肝疾患、腎疾患、糖尿病
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妊娠・授乳
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高齢者(吸収低下)
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薬剤(ACE阻害薬、利尿薬、抗がん剤など)
主な症状
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味覚・嗅覚異常
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皮膚炎、脱毛
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免疫力低下、風邪を引きやすくなる
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食欲不振
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傷の治りが悪い
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抑うつ、認知機能低下
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成長障害(小児)
厚生労働省の統計によると、特に高齢者施設入所者のうち、約20~30%が何らかの形で亜鉛不足とされており、見逃されやすい栄養障害の一つとされています(厚生労働省「高齢者の栄養管理ガイドライン」2021年)。
最近のガイドラインと研究報告
日本臨床栄養学会や日本内分泌学会などでは、亜鉛欠乏がもたらす影響について、近年より具体的な対応指針が示されています。
最新の報告例
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味覚障害の患者に対しては血清亜鉛濃度測定を推奨(日本味と匂学会ガイドライン2020)
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糖尿病患者において亜鉛欠乏がインスリン分泌に悪影響を与える可能性(Diabetes Research and Clinical Practice, 2018)
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甲状腺機能と亜鉛の関連性:亜鉛はT3、T4の合成酵素活性に関与するため、亜鉛欠乏が甲状腺機能低下症を悪化させうる(Endocrine Journal, 2017)
治療と予防のポイント ─ 安全な補充と食生活の見直し

血清亜鉛の基準値(代表的な検査機関)
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正常値:80~130 μg/dL
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亜鉛欠乏症:60μg/dL未満
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亜鉛欠乏疑い:60〜80μg/dL
補充療法
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亜鉛製剤(ノベルジン錠等)
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用量:通常1日50mg前後(亜鉛として)
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副作用:胃部不快感、吐き気
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長期服用では銅欠乏に注意が必要
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食事での工夫
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亜鉛の吸収を阻害する成分(フィチン酸、カルシウム過剰)とのバランスを考慮
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動物性たんぱく質と一緒に摂取することで吸収率UP
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ビタミンCと一緒に摂取すると吸収が高まる可能性あり
当院でのサポート

当院では、亜鉛欠乏症の早期発見と適切な補充療法に力を入れています。次のようなサポート体制を整えています。
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症状チェックと血清亜鉛測定:味覚異常や皮膚症状を伴う場合、血液検査で亜鉛をチェック。
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管理栄養士による栄養指導:日々の食事に亜鉛を取り入れるためのアドバイスを実施。
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内科・甲状腺専門医による総合評価:糖尿病や甲状腺疾患など、背景疾患も含めたトータルケア。
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他施設との連携:難治性の皮膚症状や脱毛に対しては皮膚科と連携。
気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。予防と早期対応が鍵です。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。