仮面高血圧・白衣高血圧とは何か? — “見えにくい高血圧”を理解する

一般的に「高血圧」とは、診察室で測定した血圧が高い状態を指します。しかし、実際には家庭や職場など、日常生活の中での血圧と診察室での血圧が一致しないケースが少なくありません。これが「仮面高血圧」および「白衣高血圧」です。
仮面高血圧(Masked Hypertension)
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診察室血圧は正常(<140/90mmHg)だが、家庭血圧やABPMで高値(≥135/85mmHg)
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特に朝や夜に上昇しやすい
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放置すると心血管疾患リスクが上昇
白衣高血圧(White Coat Hypertension)
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診察室血圧が高値(≥140/90mmHg)だが、家庭血圧やABPMでは正常
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医療機関に対する緊張が主因
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一般的には良性だが、動脈硬化などのリスクが完全にゼロではない
ガイドライン(JSH 2024)の定義と重要性
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日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2024(JSH 2024)」では、これら2つの病態を診断上必ず区別すべき高血圧亜型として明記[1]
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特に仮面高血圧は見逃しやすく、心血管疾患の独立リスク因子とされています
仮面高血圧と白衣高血圧の発症要因とメカニズム
仮面高血圧のリスク因子
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喫煙習慣
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過度のアルコール摂取
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ストレスの多い職場・生活環境
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睡眠不足、早朝高血圧
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糖尿病や慢性腎臓病(CKD)の合併
白衣高血圧のリスク因子
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高齢者、女性に多い
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医療機関に対する不安・緊張
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過去の診療での嫌な経験
両者のメカニズムの違い
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仮面高血圧:交感神経活性の持続的な亢進による慢性的な血圧上昇
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白衣高血圧:一過性の交感神経反応により診察時のみ血圧が上昇
診断の工夫と技術の進歩
1. 家庭血圧測定の活用
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朝(起床後1時間以内)と夜(就寝前)の測定を2回ずつ、7日間以上記録
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家庭血圧の平均が135/85mmHg以上であれば高血圧と判断
2. ABPM(24時間自由行動下血圧測定)
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睡眠中の血圧、早朝高血圧、夜間非ディッピングの把握に有効
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仮面高血圧の正確な診断のゴールドスタンダード[2]
3. 診察室での血圧測定工夫
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最低5分間の安静後に測定
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複数回(2回以上)の測定を行い、平均を用いる
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看護師による測定のほうが信頼性が高いケースも
4. スマート血圧計・アプリの導入
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若年層でも続けやすいデジタル対応
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医療者とデータ共有が可能
早期診断と治療の重要性 — 放置しない、見逃さない

仮面高血圧の危険性
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心血管疾患リスクが2倍以上に上昇(Verdecchia et al., 2002)[3]
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心肥大、脳卒中、心不全のリスクが顕著
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糖尿病やCKDを持つ患者では、仮面高血圧の頻度がさらに高い
白衣高血圧の注意点
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一見良性に見えるが、長期的には本態性高血圧へ進行する可能性あり
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動脈硬化マーカー(頸動脈IMT、脈波伝播速度)に影響を与えるとの報告あり[4]
治療の基本方針
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仮面高血圧:生活習慣の見直し+必要に応じて薬物療法
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白衣高血圧:定期的な家庭血圧測定と生活改善で経過観察
新規性と独自性
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診察室だけでは見えない血圧の“真の姿”を捉えることが、患者個別化医療の第一歩
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AIによる血圧パターン解析や遠隔モニタリングの導入も進展中
当院でのサポート

蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニックでは、仮面高血圧・白衣高血圧を早期に見つけ、正確に診断するために以下の体制を整えています。
1. 家庭血圧のモニタリング支援
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推奨機種の案内、使い方の指導、測定時間のアドバイス
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血圧記録ノートやアプリ連携で医師とデータ共有
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朝・夜の測定を徹底し、精度の高い診断へ
2. ABPMの導入と実施
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24時間血圧測定による詳細評価
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夜間高血圧や早朝高血圧の見逃し防止
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精密なリスク評価による治療方針の最適化
3. 仮面高血圧に特化した治療戦略
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生活習慣改善(減塩・運動・睡眠・禁煙)を基本に
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必要に応じて少量からの薬物治療を実施
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糖尿病・CKD・脂質異常症などとの包括的治療も提供
4. 安心できる継続フォロー
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定期的な家庭血圧評価・生活指導
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ストレスや自律神経への配慮
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オンライン診療・LINE相談で継続支援
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。
引用文献
[1] 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(JSH 2024). 2024.
[2] O’Brien E, et al. Ambulatory blood pressure monitoring in the 21st century. J Clin Hypertens. 2020;22(7):1102–1111.
[3] Verdecchia P, et al. Prognostic significance of the white coat effect. Hypertension. 2002;40(5):529–534.
[4] Sega R, et al. White coat hypertension and cardiovascular prognosis. Hypertension. 2001;38(5):852–858.