はじめに
バセドウ病と妊娠
出産後に甲状腺機能が乱れる理由
妊娠中は、体内でホルモンの変動が起こりやすく、甲状腺にも影響が及びます。特に出産後は、以下のような理由で甲状腺機能が乱れやすくなります。
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ホルモンバランスの変化: 出産後、エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンが急激に変動するため、甲状腺ホルモンの分泌に影響が出ることがあります。
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免疫システムの変化: 妊娠中は免疫システムが抑制されますが、出産後に免疫機能が再活性化することで、甲状腺に対する自己免疫反応が引き起こされることがあります。これが甲状腺炎や自己免疫性甲状腺疾患の原因となることがあります。
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ストレスと疲労: 出産後の体は、ホルモンの変動に加え、育児によるストレスや睡眠不足、体力の消耗などで甲状腺機能が影響を受けることがあります。
出産後に甲状腺機能の異常が現れることは珍しくなく、特に「無痛性甲状腺炎」や「産後甲状腺炎」がよく見られます。これらは放置すると、慢性的な甲状腺機能低下症に移行する可能性があるため、適切な診断と治療が必要です。
出産後に行うべき甲状腺検査とは?
出産後の甲状腺機能を確認するための検査は、血液検査で行われ、甲状腺ホルモン(T3、T4)および甲状腺刺激ホルモン(TSH)のレベルを測定します。この検査によって、以下の甲状腺疾患を早期に発見することができます。
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産後甲状腺炎: 出産後の一時的な甲状腺炎で、最初は甲状腺ホルモンの過剰分泌(甲状腺機能亢進)を引き起こし、その後機能が低下(甲状腺機能低下症)するケースが多いです。症状としては、動悸、発汗、体重減少などの亢進症状や、倦怠感、体重増加、寒がりなどの低下症状が現れることがあります。
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無痛性甲状腺炎: 産後3~6か月以内に起こりやすく、痛みを伴わない甲状腺炎です。甲状腺ホルモンの過剰分泌とその後の低下が特徴です。
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甲状腺機能低下症: 産後甲状腺炎や無痛性甲状腺炎が長引くと、甲状腺ホルモンの分泌が不足し、慢性的な甲状腺機能低下症に移行することがあります。疲労感や抑うつ症状、乾燥肌などが主な症状です。
甲状腺検査は、これらの疾患を早期に発見し、適切な治療を開始するために非常に重要です。特に、出産後に体調不良を感じる場合や、甲状腺疾患の既往がある方は、検査を受けることを強くお勧めします。
甲状腺機能異常の治療方法
甲状腺機能異常が発見された場合、状態に応じて適切な治療が必要です。治療方法は、甲状腺機能が亢進しているか低下しているかにより異なります。
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甲状腺機能亢進症の治療: 甲状腺ホルモンの過剰分泌が見られる場合、抗甲状腺薬やβ遮断薬を使用して症状を抑えます。産後甲状腺炎の場合、一時的な症状であれば治療が不要なケースもありますが、症状が重い場合は薬物療法が必要です。
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甲状腺機能低下症の治療: 甲状腺ホルモンが不足している場合、ホルモン補充療法が行われます。適切な量の甲状腺ホルモン薬(チラージン)を服用し、ホルモンバランスを調整します。
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定期的なフォローアップ: 甲状腺機能異常は、出産後一時的に起こることが多いものの、慢性的な症状に移行することもあります。そのため、定期的に血液検査を行い、ホルモンバランスを確認しながら治療を進めます。
甲状腺機能が安定していれば、育児や日常生活にも支障が出にくくなりますので、早期の対応が重要です。
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