夜間高血圧と心血管イベントの関連性(Nocturnal Hypertension)について

夜間高血圧とは? — 一般的な高血圧とは異なるリスク

「夜間高血圧(nocturnal hypertension)」とは、夜間睡眠中に測定された血圧が基準を超える状態を指します。通常、夜間は交感神経の活動が低下し、血圧も10〜20%程度下がる「ディッピング現象」が起きます。しかし、夜間にも関わらず血圧が十分に下がらない、あるいはむしろ上昇してしまう人は、心血管リスクが高いことが知られています。

夜間高血圧の定義(JSH 2024)

  • 夜間睡眠中の平均血圧:120/70 mmHg以上が夜間高血圧と定義されます[1]。

  • 特に「non-dipper型」「reverse-dipper型」はリスクが高い。

夜間高血圧が注目される理由

  • 診察室血圧や家庭血圧が正常でも、夜間に血圧が高い場合があり(仮面高血圧の一種)[2]。

  • 早朝高血圧や脳卒中の発症と密接に関連。

夜間高血圧と心血管疾患の深い関連

夜間高血圧は、心筋梗塞、脳卒中、心不全、突然死など多くの心血管イベントとの強い相関があることが国内外の研究で報告されています。

具体的な数字データと論文

  • Ohasama Studyでは、夜間収縮期血圧が10mmHg上昇すると心血管死のリスクが32%増加[3]。

  • 日本人を対象としたJ-HOP研究でも、夜間血圧上昇は左室肥大や心不全のリスクと強く関連[4]。

  • 逆に、夜間血圧が適切に下がっている人は、心血管疾患の発症率が有意に低下します。

心血管イベントの種類

  • 脳出血:特に高齢者での夜間高血圧と強い関連[5]

  • 心房細動:夜間交感神経活動と血圧上昇が引き金に

  • 虚血性心疾患:心筋の酸素需要と供給のバランス崩壊

診断方法と最新ガイドラインでの位置づけ

ABPM(24時間自由行動下血圧測定)

夜間高血圧を正確に診断するためには、家庭血圧や診察室血圧ではなく、ABPM(Ambulatory Blood Pressure Monitoring)の実施が必須です。

最新のJSH 2024の報告

  • JSH 2024では、夜間高血圧が独立した心血管リスク因子であると明記。

  • 特に糖尿病やCKD合併患者では、夜間血圧の評価が治療戦略に不可欠とされている[1]。

新規性と独自性

  • 夜間高血圧の「時間軸での把握」に基づく治療方針が提案されるようになった点。

  • 睡眠中の交感神経活動、メラトニン分泌などの生理学的背景も重視されている点。

早期診断と治療介入の意義

なぜ早期発見が重要か?

  • 夜間高血圧は自覚症状がないため、見逃されやすい。

  • 他のリスクがない若年層でも、高血圧性臓器障害の原因になりうる。

  • 「仮面高血圧」の一種として扱われ、心血管イベントの予防の鍵となる。

治療の安全性と戦略

  • ARBやCa拮抗薬など、夜間の効果持続時間を重視した薬剤選択が推奨。

  • 就寝前投与(chronotherapy)の有効性も報告されており、時間帯に応じた薬物療法が研究されています[6]。

  • 生活習慣(塩分摂取・睡眠の質)も改善の対象。

数値で見る介入効果

  • ABPMに基づく治療で心血管イベント発症率が最大30〜40%低下したというメタ解析も報告されています[7]。

当院でのサポート

 

蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニックでは、夜間高血圧を重視し、以下のような体制で患者さまを支援しています。

1. 専門医による個別治療計画の立案

  • 薬剤の種類・投与タイミングの最適化

  • 心血管疾患リスクの層別化に基づく治療

  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)との関連性にも着目した診療

2. 生活習慣改善支援

  • 睡眠衛生のアドバイス

  • 減塩・禁煙・運動療法を含めた多面的支援

  • 睡眠障害の早期発見と精神的ストレスへの配慮

3. 継続的フォローと多職種連携

  • 定期的な血圧測定と評価

  • オンライン相談による継続サポート


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献

[1] 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(JSH 2024). 2024.
[2] Franklin SS, et al. Masked hypertension: understanding its complexity. Eur Heart J. 2017;38(15):1112–1118.
[3] Ohkubo T, et al. Prognostic significance of nocturnal blood pressure in Japan: the Ohasama study. Hypertension. 2002;40(6):802–806.
[4] Kario K, et al. Morning surge in blood pressure as a predictor of silent and clinical cerebrovascular disease in elderly hypertensives: a prospective study. Circulation. 2003;107(10):1401–1406.
[5] Kario K, et al. Prognostic significance of blood pressure variability and average blood pressure levels in hypertensive patients. Hypertension. 2010;56(5):681–687.
[6] Hermida RC, et al. Bedtime dosing of antihypertensive medications reduces cardiovascular risk in CKD patients. J Am Soc Nephrol. 2011;22(12):2313–2321.
[7] Dolan E, et al. Ambulatory blood pressure monitoring predicts cardiovascular events in treated hypertensive patients—an international database of prospective studies. J Hypertens. 2007;25(5): 877–886.

 

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