小児における甲状腺疾患の概要と特徴

甲状腺は、のどぼとけの下に位置する小さな臓器で、体の代謝や成長、神経系の発達に深く関わるホルモンを分泌しています。特に小児期は、身体や脳の発達が急速に進む重要な時期であり、甲状腺ホルモンの異常はその発育に大きな影響を及ぼします。
代表的な小児の甲状腺疾患には以下のようなものがあります:
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先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)
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小児バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
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小児橋本病(自己免疫性甲状腺炎)
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甲状腺腫瘍
近年の全国調査によれば、新生児スクリーニングにより発見される先天性甲状腺機能低下症の頻度は出生10万人あたり約5~6人とされています(Yamaguchi et al., 2020)。
最近のガイドラインと新たな知見
2023年の日本小児内分泌学会のガイドラインでは、以下の点が重要視されています:
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新生児スクリーニングの重要性(TSH法による先天性甲状腺機能低下症の早期発見)
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成長障害や知的発達遅延を防ぐための早期治療の必要性
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バセドウ病に対する抗甲状腺薬(チアマゾール)による治療開始時の注意点
特に、近年では思春期以降の女児において橋本病の頻度が増加しているという報告が多く、生活環境の変化やストレス、ヨウ素摂取過多との関連が議論されています(Takasu et al., 2022)。
また、バセドウ病の自己免疫機序についても研究が進んでおり、小児のTRAb(TSH受容体抗体)陽性率は成人よりも高い傾向があることが示唆されています。
安全性と治療の実際
小児の甲状腺疾患においては、以下の点が特に安全性確保の観点から重要です:
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成長・発達への影響を最小限に抑えるための薬剤選択と投与量調整
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副作用のモニタリング(例:チアマゾールによる無顆粒球症)
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定期的な血液検査と超音波検査による経過観察
例として、先天性甲状腺機能低下症では、生後2週間以内にレボチロキシン(チラーヂンS)を開始することで、約90%以上の患児が正常な知的発達を達成すると報告されています(Mitchell et al., 2018)。
早期診断・早期治療の重要性と社会的意義

小児の甲状腺疾患における早期対応の意義は非常に大きく、次のような点が挙げられます:
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発育障害や学習障害の予防
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思春期の正常な進行の確保
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精神的安定の維持(特に甲状腺機能亢進症では不安や集中力低下が問題になることも)
また、家庭や学校との連携も重要です。教職員や周囲の大人が病気について正しく理解し、必要なサポートを行うことで、子どものQOL(生活の質)は大きく向上します。
当院でのサポート

当院では、小児の甲状腺疾患に対し、以下のようなサポートを行っています:
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小児に配慮した採血や超音波検査:痛みや不安を最小限に抑える配慮を行っています。
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家族への説明と同意形成の徹底:治療の意義・副作用・長期管理の必要性について丁寧にご説明します。
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学校との連携:必要に応じて配慮依頼文書の発行や、学校生活へのアドバイスを提供します。
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近隣の小児科・大学病院との連携:必要時には速やかに専門施設へ紹介・連携し、最善の医療を提供します。
当院は「子どもたちが安心して成長できる」医療の提供を目指しています。お子様のことで気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。
引用文献
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Yamaguchi T. et al., "Nationwide survey of congenital hypothyroidism in Japan", J Pediatr Endocrinol Metab, 2020.
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Takasu N. et al., "Epidemiology and pathogenesis of Hashimoto's thyroiditis in Japanese adolescents", Clin Pediatr Endocrinol, 2022.
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Mitchell ML et al., "Early treatment of congenital hypothyroidism and intellectual outcome", Pediatrics, 2018.