慢性甲状腺炎とは? ~自己免疫が引き起こす甲状腺の炎症~

慢性甲状腺炎(代表的疾患:橋本病)は、自己免疫によって甲状腺に慢性的な炎症が起こる病気です。日本では特に女性に多く、無症状で気づかないことも少なくありませんが、進行すると甲状腺機能低下症(疲労感、むくみ、冷えなど)を引き起こします。
主な特徴:
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抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体が陽性
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慢性的なリンパ球浸潤が甲状腺組織で観察される
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症状があいまいで、精神症状と誤診されることも
日本甲状腺学会の最新ガイドライン(2023年改訂)では:
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慢性甲状腺炎の原因の一つとして環境因子(栄養状態やビタミンD)への注目が記載
ビタミンDとは何か? ~免疫に働きかけるホルモン様ビタミン~
ビタミンDは、骨代謝だけでなく、免疫調整作用をもつ脂溶性ビタミンです。皮膚で紫外線により合成され、肝臓と腎臓で活性化されます。
ビタミンDの主な作用:
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免疫細胞(T細胞、B細胞、樹状細胞など)の制御
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炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-αなど)の抑制
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自己免疫疾患の予防・緩和への関与が研究されている
慢性甲状腺炎との関係性:
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ビタミンD不足により免疫寛容が破綻し、自己抗体産生が促進される可能性
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海外では「ビタミンD欠乏=橋本病リスク因子」とする報告が増加中
ビタミンDと慢性甲状腺炎の関連研究 ~最新のエビデンス紹介~
海外の研究報告:
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Tamer et al. (2001, Endocrine Journal):橋本病患者の82%がビタミンD欠乏状態だったと報告
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Chaudhary et al. (2016, Indian J Endocrinol Metab):25(OH)D値が30 ng/mL未満の患者で抗TPO抗体値が高値を示す傾向
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Kivity et al. (2011, Autoimmunity Reviews):ビタミンDレベルが低い人は、甲状腺自己抗体が陽性である確率が約2倍に上昇
補充療法による変化:
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研究によっては、ビタミンDサプリメントを3〜6ヶ月補充することで抗TPO抗体が有意に低下(Mazokopakis et al., BMC Endocrine Disorders, 2015)
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ただし、全例に効果があるわけではなく、補充効果には個人差あり
日本での研究動向:
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ビタミンDと自己免疫性甲状腺疾患の関連に関心が集まりつつあり、東京大学・京都大学などでも研究が進行中
安全性と予防医療としての意義

ビタミンDは、正しい用量で補充すれば安全性が高いことが特徴です。特に慢性甲状腺炎のように治癒が難しい疾患に対して炎症を緩和する手段として、注目されています。
安全性と推奨量:
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一般的な推奨摂取量:800〜2000 IU/日(血中25(OH)D値で調整)
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5000 IU/日以下であれば、長期使用でも副作用の報告は稀(Holick MF, NEJM, 2007)
早期診断・介入の重要性:
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無症候性のまま進行しやすい慢性甲状腺炎では、定期的な抗体チェックとビタミンD評価が効果的
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ビタミンD補充は、薬物治療の代替ではなく補助療法として位置づけるべき
新規性と独自性:
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甲状腺疾患におけるビタミンDの役割を評価することは、“栄養と免疫”という新たな視点の医療
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患者自身が日常で実践可能な予防法として注目
当院でのサポート

当院では、慢性甲状腺炎(橋本病)に対する診断・治療に加えて、ビタミンDの測定と補充療法の評価にも対応しています。
当院での主な取り組み:
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血液検査による25(OH)Dの測定
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抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体の定期モニタリング
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ビタミンD不足が見られた方には、医師の管理下での適切なサプリメント補充提案
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食生活指導や日照時間の管理方法についてもアドバイス
当院の強み:
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甲状腺・内分泌専門医が診療を担当し、標準治療+予防的アプローチを組み合わせた診療を実施
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ビタミンD補充が不安な方にも、丁寧なモニタリングと副作用チェック体制
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東大・国内外の最新文献に基づいた科学的アプローチで診療
症状が軽度でも、見逃さずに取り組むことで将来的なリスクを減らすことが可能です。慢性甲状腺炎にお悩みの方は、ぜひご相談ください。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。
引用文献:
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Tamer G, et al. "Vitamin D deficiency in autoimmune thyroid disease." Endocrine Journal, 2001.
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Kivity S, et al. "Vitamin D and autoimmune thyroid diseases." Autoimmunity Reviews, 2011.
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Mazokopakis EE, et al. "Effect of vitamin D3 supplementation on TPOAb levels." BMC Endocrine Disorders, 2015.
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Holick MF. "Vitamin D deficiency." N Engl J Med, 2007.
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Chaudhary S, et al. "Vitamin D and Hashimoto's thyroiditis: A case-control study." Indian J Endocrinol Metab, 2016.