授乳中に使用可能な甲状腺薬について

授乳中の甲状腺疾患とは?

授乳期の女性にとって、甲状腺疾患の治療と母乳育児の両立は重要なテーマです。甲状腺疾患には、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)、橋本病(甲状腺機能低下症)、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎などが含まれます。これらの疾患は、出産後のホルモン変化によって悪化することがあり、産後の女性には特に注意が必要です。

授乳中に甲状腺の治療を行う際に重要なのは、「母乳に移行する薬剤が赤ちゃんにどのような影響を及ぼすか」という点です。

授乳中に使用可能な薬剤と安全性の根拠

1. チラーヂン(レボチロキシンナトリウム)

橋本病などの甲状腺機能低下症に対して処方される代表的な甲状腺ホルモン製剤です。チラーヂンは母乳中への移行はわずかであり、通常の治療量では新生児に有害な影響を与えることはほとんどありません。

  • 根拠:2020年の米国小児科学会(AAP)およびLactMedデータベースでは、チラーヂンは授乳中に安全に使用できる薬剤に分類されています。

2. メルカゾール(チアマゾール)

バセドウ病などの甲状腺機能亢進症に使用される抗甲状腺薬です。母乳中への移行はありますが、1日あたり10mg以下の使用量であれば、授乳を継続しても新生児に有害な影響はほとんどないとされています。

  • 根拠:2018年の日本甲状腺学会ガイドライン、およびEndocrine Societyの推奨では、少量使用(≦20mg/日)での授乳継続を容認しています。

3. プロピルチオウラシル(プロパジール)

チアマゾールに比べ母乳への移行が少ないとされます。ただし、肝障害のリスクがあるため、現在では授乳中でもメルカゾールが第一選択とされる傾向があります。

  • 根拠:Endocrine Society Guidelines (2017) において、授乳中はメルカゾールを推奨する方向性が強調されています。

ガイドラインと最新の研究から見る推奨治療

日本甲状腺学会(JTA)2020年改訂ガイドライン

  • 橋本病:チラーヂンは授乳中の使用が可能。TSH・FT4を定期的に確認すること。

  • バセドウ病:メルカゾールを10mg/日以下に抑え、授乳直後に投与するなどの工夫が推奨されています。

Endocrine Society(米国内分泌学会)2017年版

  • 抗甲状腺薬はメルカゾールを優先し、授乳との両立が可能。

  • 新生児への影響を減らすために授乳後に薬剤を服用する工夫が有効。

授乳中の治療で注意すべき点と数字で見る安全性

母乳中の薬物濃度

  • レボチロキシンの母乳中移行率:<0.1%(Sato et al., 2016)

  • メルカゾールの母乳中移行率:約0.1~1.5%(Cooper et al., N Engl J Med, 2005)

注意点

  • 赤ちゃんの甲状腺機能(TSH、FT4)は定期的にチェックすることが推奨されます。

  • 母親の甲状腺機能が安定していない場合、母乳育児にも影響が出るため、安定した管理が必要です。

当院でのサポート

 

当院では、授乳中の女性が安心して治療を受けられるよう、以下のような取り組みを行っています:

  • 個別相談:妊娠中・授乳中の方に対し、治療内容・薬の安全性について丁寧に説明。

  • 小児科との連携:必要に応じて赤ちゃんの甲状腺機能を検査・モニタリングします。

  • 診療時間の調整:育児中の通院負担を減らすための柔軟なスケジューリング。

  • 情報発信:InstagramやYouTubeなどを活用し、授乳と甲状腺疾患に関する正しい知識を提供しています。

授乳を続けながら、甲状腺疾患を適切に治療することは可能です。当院では、患者様と赤ちゃんの両方の健康を第一に考え、安心できる治療環境を整えています。


監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

 

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