新規降圧薬「エンレスト(ARNI)」について—従来薬との比較と心・腎・脳への保護作用

エンレストとは?—降圧薬の新しい選択肢「ARNI」

**エンレスト(商品名、一般名:サクビトリル/バルサルタン)**は、世界的に注目されている新しいタイプの降圧薬であり、**ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)**に分類されます。

ARB+ネプリライシン阻害薬の二重作用

  • バルサルタン(ARB):レニン-アンジオテンシン系を抑制し、血管拡張・ナトリウム排泄促進

  • サクビトリル(ネプリライシン阻害薬):ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP)の分解を抑え、心保護・血管拡張作用を増強

日本での適応

  • 2020年に慢性心不全(HFrEF)に対して保険適応

  • 現在、高血圧に対する適応

従来の降圧薬との比較

主な降圧薬と比較される作用・効果

薬剤クラス 主要作用機序 特徴的な副作用 臓器保護作用
ARB(例:バルサルタン) 血管拡張・RA系抑制 めまい、腎機能障害 心・腎保護効果あり
CCB(例:アムロジピン) 血管平滑筋弛緩 末梢浮腫 脳血管保護が強い
利尿薬(例:ヒドロクロロチアジド) ナトリウム排泄促進 電解質異常、脱水 心不全予防に有効
ARNI(エンレスト) RA系+NP系の同時抑制 血圧低下、浮腫、腎機能注意 心・腎・脳を多方面から保護

降圧効果

  • 高血圧患者対象のPARADIGM-HF試験の副次解析では、 → エンレストはバルサルタン単独よりも収縮期血圧を平均5〜7mmHg追加で低下[1]

心臓・腎臓・脳への保護作用

1. 心臓への保護作用

  • PARADIGM-HF試験にて、 → 心不全による死亡・再入院リスクを20%以上低下[2]

  • BNP上昇を防ぎ、心筋リモデリングを抑制

2. 腎臓への影響

  • 慢性腎疾患(CKD)患者においても、 → eGFRの低下速度がARB単独より緩やか[3]

  • 糖尿病性腎症への応用も今後期待されている

3. 脳血管への効果

  • ナトリウム利尿ペプチドは脳血流調節にも関与しており、 → ネプリライシン阻害により脳卒中リスクの低減可能性が示唆[4]

使用上の注意点と課題

投与時の注意事項

  • ACE阻害薬との併用は禁忌(血管浮腫リスク)

  • 腎機能・カリウムのモニタリングが必要

  • 初回投与時は血圧低下に注意し、段階的に増量

高血圧治療薬としての課題

  • 国内では「高血圧単独」での保険適応がまだない(2024年時点)ARBからの変更あるいは他剤への追加。

  • 今後、レジスト型高血圧への適応拡大・エビデンス構築が期待される

費用と処方の制限

  • 他の降圧薬に比べ高価

  • 投薬に際しては心不全・心肥大・左室駆出率の把握が望ましい

当院でのサポート

 

当院では、心不全・難治性高血圧・腎機能低下を伴う患者に対して、ARNIの導入を検討しています。

1. エンレストの導入基準とモニタリング

  • 左室駆出率(LVEF)、NT-proBNP、eGFR、血圧、カリウム値を事前に評価

  • 投与後は、腎・心・電解質パラメータの定期的チェックを実施

2. 臨床検査技師との連携による支援体制

  • 専門医・臨床検査技師と連携し、 → 低ナトリウム食・服薬アドヒアランス・体重変動のモニタリングを行います

3. 従来治療で効果が不十分な方へ

  • 高齢者・多剤併用例でも慎重に投与設計を行い、最大限の臓器保護を目指す

  • 他院で心不全と診断された方のセカンドオピニオンにも対応しています


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や高血圧・心不全などの複合疾患にも包括的な治療を提供しています。


引用文献

[1] Desai AS, et al. J Am Coll Cardiol. 2015;66(17):2098–2109.
[2] McMurray JJV, et al. N Engl J Med. 2014;371(11):993–1004.
[3] Damman K, et al. Eur J Heart Fail. 2018;20(3):510–519.
[4] Cohn JN, et al. Circulation. 2020;141(10):784–796.

 

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