橋本病の名前の由来について

橋本病とは ─ その定義と医学的意義

橋本病(Hashimoto's thyroiditis)は、自己免疫性甲状腺炎の一種で、甲状腺に慢性的な炎症が起こり、徐々に甲状腺機能が低下していく疾患です。特に女性に多く見られ、日本では甲状腺疾患の中でも最も一般的な病気の一つです。

  • 発症年齢のピーク:30代〜50代の女性

  • 有病率:約5〜10%(日本内分泌学会報告)

  • 症状:疲労感、寒がり、むくみ、便秘、うつ症状、月経異常 など

この病気が特に注目される理由は、自己免疫疾患としての典型的なメカニズムが明らかになっており、他の自己免疫疾患との関連性も高い点にあります(例:1型糖尿病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)。

橋本病の名前の由来 ─ 橋本策博士の功績

橋本病の名称は、日本人医師・橋本策(はかる)博士に由来します。

1907年、当時25歳だった橋本博士は、ドイツ・ゲッティンゲン大学の留学中に、甲状腺に慢性炎症がありリンパ球が浸潤している患者の病理組織を観察し、その報告を英語論文として世界に発表しました(Hashimoto H. Zur Kenntnis der lymphomatösen Veränderung der Schilddrüse. Arch Klin Chir 1907)。

この論文は、当時としては画期的なものであり、

  • 甲状腺にリンパ球浸潤があること

  • 慢性炎症が進行性であること

  • 女性に多くみられること などを初めて体系的に報告したものでした。

この発見が、後に欧米の学者によって"Hashimoto's thyroiditis"と名付けられ、現在も世界中で使用されています。

最近のガイドラインと橋本病の理解の進展

日本甲状腺学会および米国甲状腺学会(ATA)は、橋本病に関して以下のような見解と治療ガイドラインを提示しています。

  • 診断基準

    • TSH高値(甲状腺機能低下症)

    • 抗TPO抗体または抗サイログロブリン抗体の陽性

    • 超音波でのびまん性低エコー

  • 治療方針

    • 無症候性の軽度な甲状腺機能低下の場合、経過観察も選択肢に。

    • 明らかな症状がある場合はレボチロキシン(チラーヂンS)で補充療法。

  • 妊娠との関係: 妊娠希望の女性では、TSH値を2.5未満に保つことが推奨されています(ATA 2017, 日本甲状腺学会ガイドライン2022)。

また、橋本病の患者はうつ病や不安障害などの精神症状を伴うこともあり、身体面だけでなくメンタルケアの視点も重要です。

橋本病の新しい知見と治療戦略

近年では、橋本病における炎症メカニズムや遺伝的背景、食生活・環境因子の関与についても研究が進んでいます。

  • 新規性

    • 腸内細菌叢と橋本病の関連性(Zhao et al., Front Endocrinol, 2021)

    • セレニウム、ビタミンD、亜鉛の補充効果に関する研究

  • 独自性

    • 日本では海藻摂取量が多く、ヨウ素の過剰摂取による橋本病の誘発が示唆されています(Okamura et al., Thyroid, 2014)

  • 安全性

    • レボチロキシンの投与はきわめて安全性が高く、妊婦にも使用可能

    • 定期的な血液検査と診察で副作用はほとんどなし

  • 早期診断の意義

    • 無症状でも抗体陽性やTSHの軽度上昇がある場合、早期介入で生活の質の低下を防げる可能性

数字的には、日本人女性の10〜15%が抗TPO抗体陽性とされており、潜在的な橋本病予備軍が多いことも分かっています(Satoh et al., J Clin Endocrinol Metab 2013)。

当院でのサポート

 

当院では、橋本病に対して以下のような包括的なサポートを提供しています。

  • 初診時の丁寧な説明

    • 病名の由来、病態、治療方針をわかりやすくご説明。

  • 適切な検査体制

    • 抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体、TSH・FT3・FT4、甲状腺エコーを即日実施可能。

  • 食事・生活指導

    • ヨウ素制限の必要性やサプリメント使用時の注意点についても指導。

  • メンタルケアへの配慮

    • 必要に応じて心療内科・精神科と連携し、心理的側面からの支援も行っています。

  • 将来の妊娠を見据えた治療

    • 若年女性への将来の妊娠を考慮した治療目標の設定も実施。

患者様が安心して継続的に通院できるよう、医師・看護師・臨床検査技師が連携し、心と体の両面から支える医療を実現しています。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

 

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