甲状腺と脳・心のつながり ─ なぜ精神症状が出るのか?

甲状腺ホルモン(T3・T4)は、新陳代謝だけでなく、脳の神経伝達や感情調整にも深く関与しています。ホルモン分泌の異常があると、うつや不安、イライラ、認知機能低下といった精神症状が現れることがあります。
-
甲状腺機能低下症(橋本病など):無気力、抑うつ、眠気、集中力の低下など
-
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など):焦燥感、不安、怒りっぽさ、不眠、軽躁状態など
文献より:
-
Hage MP, Azar ST. The link between thyroid function and depression. J Thyroid Res. 2012. https://doi.org/10.1155/2012/590648
-
Medici M, et al. Thyroid function and risk of depression: a population-based cohort study. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99(9):E1625-E1633.
甲状腺疾患による精神症状の具体例とその頻度
代表的な精神症状とその発症頻度
-
うつ病様症状:甲状腺機能低下症の患者の約40%にみられる(Mediciら, 2014)
-
不安障害・パニック発作:甲状腺機能亢進症患者の30~50%に認められる
-
注意障害・記憶力低下:特に高齢者の甲状腺機能異常で顕著
特に見逃されやすいケース
-
軽度のTSH異常(潜在性甲状腺機能低下症)での「なんとなくつらい」
-
精神科や心療内科での「気分障害」の背景に甲状腺疾患があるケース
最近の学会ガイドラインにおける甲状腺と精神症状の取り扱い
-
日本甲状腺学会 2023年版ガイドラインでは、精神症状が強い場合には必ず甲状腺ホルモン検査を行うことが推奨されています。
-
アメリカ甲状腺学会(ATA)2022年改訂ガイドラインでも、うつ病・不安障害と診断された患者にはTSH・FT4のスクリーニングが推奨され、特に女性や高齢者において注意喚起がなされています。
新規性・独自性:
-
潜在性の甲状腺異常(TSHのみ異常)でも精神症状を呈することの認識が広がりつつあり、治療の早期介入が注目されています(Biondi B et al. Endocr Rev. 2012)。
安全性と早期診断・治療の重要性

精神症状が主訴で受診する患者の中に、実は甲状腺ホルモン異常が隠れているケースは少なくありません。
早期発見のメリット
-
不要な精神薬処方の回避
-
ホルモン補充や抗甲状腺治療による速やかな症状改善
-
社会的機能(仕事、家庭、学業など)の早期回復
安全性の観点:
-
精神症状を呈する患者に甲状腺薬を適切に使用することで、再発や悪化のリスクが軽減される
-
薬物治療に加え、心理社会的アプローチとの併用が効果的(e.g. 認知行動療法との併用)
当院でのサポート

診療体制:
-
初診時にTSH・FT3・FT4を必ず測定
-
抑うつ・不安・不眠などを伴う患者には精神科・心療内科との連携も提案
-
必要に応じて診断書の作成・就労支援・学校対応などにも対応
情報提供:
-
YouTube・Instagram等で「甲状腺とメンタルヘルス」について動画配信中
-
啓発リーフレットや院内掲示での情報提供
専門的支援:
-
抗うつ薬や抗不安薬を使用しても改善が乏しい患者の「セカンドオピニオン」としてもご相談を受け付けています
-
橋本病とうつの併発、バセドウ病とパニック障害の鑑別など、専門的な視点からアプローチ
監修者プロフィール 院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada) 医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
-
日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
-
日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。