はじめに:甲状腺機能低下症と倦怠感の関係とは?

甲状腺は、首の前方に位置し、体全体の代謝やエネルギー消費を調整する重要なホルモンを分泌しています。甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が不足することで、体の代謝が低下し、エネルギー不足を引き起こします。その結果、慢性的な疲労感や倦怠感が現れることがあり、日常生活に大きな支障をきたします。
倦怠感は、仕事や家事、趣味などを楽しむ意欲を奪い、生活の質を著しく低下させます。甲状腺機能低下症は女性に多く見られ、特に更年期を迎える世代に発症することが多いです。こうした症状に対して、適切な治療を受けることで、生活の質を向上させることが可能です。
本記事では、甲状腺機能低下症による倦怠感の原因と、その効果的な対処法について詳しく解説します。倦怠感に悩む方や、その原因が分からず困っている方にとって、役立つ情報を提供します。
甲状腺機能低下症が引き起こす倦怠感のメカニズム
甲状腺機能低下症は、体全体の代謝が低下することによって、さまざまな症状を引き起こします。その中でも倦怠感は、非常に多くの患者さんが感じる代表的な症状です。ここでは、なぜ甲状腺ホルモンの不足が倦怠感を引き起こすのか、そのメカニズムを解説します。
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エネルギー生産の低下
甲状腺ホルモンは、体内のエネルギー代謝を促進し、細胞がエネルギーを効率的に生産・消費できるように調整します。このホルモンが不足すると、全身の細胞がエネルギーをうまく使えず、疲れやすくなります。その結果、どれだけ休んでも疲労感が抜けず、身体が重く感じられるようになります。 -
基礎代謝の低下
基礎代謝は、体が生きていくために必要な最低限のエネルギー消費量を指します。甲状腺ホルモンの低下により、基礎代謝が減少すると、消費エネルギーが少なくなり、食事で摂取したエネルギーが脂肪として蓄積されやすくなります。これにより、体重増加やむくみが生じ、体の重さを感じることで倦怠感が強まります。 -
神経伝達の遅延
甲状腺ホルモンは、脳内の神経伝達にも影響を与えます。このホルモンが不足すると、脳内の情報伝達が遅くなり、集中力の低下や思考の鈍化を引き起こします。その結果、精神的な疲労感や無気力感も感じやすくなり、日常の活動が億劫に感じられます。 -
免疫機能の低下
甲状腺ホルモンは、免疫システムにも影響を与えます。ホルモンが不足すると、免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなるほか、自己免疫反応が起こりやすくなります。これにより、身体的な疲労感だけでなく、精神的な倦怠感も強まることがあります。
甲状腺機能低下症は、これらの複合的な要因によって倦怠感を引き起こし、生活の質を低下させるため、早期に専門医の診断と適切な治療を受けることが重要です。
甲状腺機能低下症による倦怠感の具体的な症状
甲状腺機能低下症は、さまざまな症状を引き起こしますが、その中でも倦怠感は最も多く見られる症状の一つです。以下に、甲状腺機能低下症が原因で起こる具体的な倦怠感の症状を紹介します。
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朝起きるのがつらい
朝、目が覚めても体がだるく、布団から出るのが難しいと感じることはありませんか?甲状腺機能低下症では、休んでも疲労が取れないため、朝起きたときに最も強い倦怠感を感じることが多いです。 -
日中の眠気やだるさ
日中、特に午後になると、急激に眠気が襲ってくることがあります。仕事中や家事をしている時にも、体が重く、集中力が続かないと感じる場合は、甲状腺機能の低下が疑われます。 -
筋肉や関節のだるさや痛み
甲状腺ホルモンが不足すると、筋肉や関節の回復力が低下し、慢性的なだるさや痛みを感じることがあります。これにより、身体を動かすこと自体が辛くなり、さらに倦怠感が増してしまいます。 -
無気力感や抑うつ状態
身体的な疲労感に加え、精神的な無気力感や抑うつ感が見られることがあります。何をしても楽しく感じられない、興味が湧かないといった症状が続く場合は、甲状腺機能低下症の影響を考える必要があります。 -
体重増加やむくみ
甲状腺機能の低下により、基礎代謝が下がると、エネルギーが消費されずに脂肪として蓄積され、体重が増加することがあります。また、体内の水分代謝も悪くなるため、手足や顔にむくみが見られることもあります。これらの症状も、倦怠感を増幅させる要因となります。
これらの症状が長期間続く場合、日常生活に大きな支障をきたし、精神的にも疲弊することがあります。早めの診断と治療が、症状の改善と生活の質の向上に繋がります。
甲状腺機能低下症による倦怠感の効果的な対処法

甲状腺機能低下症による倦怠感は、適切な治療と生活習慣の見直しによって、改善が期待できます。以下に、効果的な対処法をいくつかご紹介します。
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ホルモン補充療法の実施
甲状腺ホルモン(チラーヂンなど)の補充療法は、甲状腺機能低下症の基本的な治療法です。医師の指導のもと、適切な量を服用することで、ホルモンバランスが整い、倦怠感をはじめとする症状が改善されます。服用後も、定期的な血液検査でホルモン値をチェックし、治療計画を調整していくことが大切です。 -
バランスの取れた食事の摂取
甲状腺ホルモンの合成には、ヨウ素、セレン、亜鉛などの栄養素が必要です。これらを適度に摂取するため、バランスの取れた食事を心がけましょう。ただし、過剰なヨウ素摂取は逆効果となることがあるため、海藻類などの摂取量には注意が必要です。 -
適度な運動習慣を取り入れる
適度な運動は、全身の代謝を促進し、倦怠感の軽減に役立ちます。ウォーキングやヨガ、軽いストレッチなど、体に無理のない運動を取り入れることで、エネルギー消費が高まり、気分転換にも繋がります。 -
十分な休息と睡眠を確保する
倦怠感が強いときは、無理に活動せず、十分な休息を取ることも重要です。質の良い睡眠を確保するために、寝る前にリラックスできる環境を整え、入眠しやすい状態を作りましょう。特に、寝室の環境(温度、明るさ、音など)に気を配り、快適な睡眠をサポートすることが大切です。 -
ストレス管理を心がける
ストレスは甲状腺機能に悪影響を与えることがあります。日常生活でできるだけストレスを軽減し、リラックスできる時間を持つことが大切です。深呼吸や瞑想、趣味に没頭する時間を持つことで、心身のリフレッシュを図りましょう。
これらの対処法を取り入れることで、甲状腺機能低下症による倦怠感を軽減し、日常生活をより快適に過ごすことができます。
厚生労働省 - 甲状腺の病気に関する情報
甲状腺機能低下症の予防と早期発見のために

甲状腺機能低下症は、適切な治療を受けることで症状をコントロールできる病気です。しかし、早期発見と治療が重要であり、日頃から自分の体調に気を配ることが必要です。以下に、予防と早期発見のためのポイントを挙げます。
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定期的な健康チェックを行う
倦怠感や体重増加、むくみなどの症状が見られる場合は、早めに医療機関で甲状腺の検査を受けることが大切です。特に、家族に甲状腺疾患の既往歴がある場合は、定期的な健康チェックを行いましょう。 -
健康的な生活習慣を維持する
バランスの取れた食事、適度な運動、質の良い睡眠を心がけることで、全身の代謝を維持し、甲状腺機能の低下を防ぐことができます。特に、ストレスをためない生活を意識することが重要です。 -
甲状腺に負担をかけない食事を心がける
ヨウ素の過剰摂取は甲状腺に負担をかけることがあるため、適度な量を心がけましょう。海藻類の摂取量をコントロールし、栄養バランスの取れた食事を心がけることが大切です。 -
気になる症状があれば、早めに受診する
倦怠感や体重の変化、その他の不調を感じた場合は、早めに医療機関を受診し、専門医による診断を受けましょう。適切な治療を受けることで、症状の改善と生活の質の向上が期待できます。
当院では、甲状腺機能低下症の診断と治療を専門的に行い、患者様一人ひとりに合わせた治療計画を提供しています。少しでも不安を感じたら、ぜひご相談ください。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
- 日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患の診断と治療を提供しています。