はじめに:甲状腺疾患と睡眠障害の関係とは
眠れない夜が続くと、体力や集中力が低下し、日常生活に支障をきたします。睡眠障害の原因はさまざまですが、甲状腺の異常が関係している場合も少なくありません。甲状腺は、代謝やエネルギーの消費を調整するホルモンを分泌し、体のあらゆる機能に影響を与えています。このホルモンのバランスが崩れると、体温調節や心拍数、さらには精神状態にも影響を及ぼし、結果として不眠や睡眠の質の低下を引き起こすことがあります。
甲状腺疾患による睡眠障害は、適切な治療を受けることで改善が期待できるため、原因不明の不眠に悩んでいる方は、甲状腺の検査を受けることを検討してみてください。
本記事では、甲状腺疾患と睡眠障害の関係、具体的な症状、そして対処法について詳しく解説します。眠れない夜が続く場合は、甲状腺の異常を疑い、専門医の診断を受けることが重要です。
甲状腺ホルモンの役割と睡眠への影響
甲状腺ホルモン(T3、T4)は、体の代謝をコントロールし、エネルギーをどのように消費するかを決定する重要なホルモンです。このホルモンのバランスが崩れると、体内のさまざまな機能に影響を与え、結果として睡眠障害が引き起こされることがあります。以下に、甲状腺ホルモンがどのように睡眠に影響を与えるかを解説します。
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甲状腺機能低下症と睡眠障害
甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」の場合、体全体の代謝が低下し、エネルギー不足を引き起こします。これにより、以下のような睡眠障害が生じることがあります。- 過度の眠気:昼間に強い眠気を感じ、夜間も長時間眠ることがありますが、深い睡眠が得られず、疲れが取れない状態が続きます。
- 不眠:一方で、眠りたいのに寝つけない、夜中に何度も目が覚めるなどの不眠症状も見られます。これは、代謝の低下による体温調節の不調が原因とされています。
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甲状腺機能亢進症と睡眠障害
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症」の場合、代謝が過剰に活発化し、身体が常にエネルギーを消費している状態になります。その結果、以下のような睡眠障害が起こりやすくなります。- 不眠:心拍数の増加や過度のエネルギー消費により、体が興奮状態になり、眠れない、夜中に何度も目が覚めるといった不眠症状が現れます。
- 過度の発汗と体温上昇:体温が高くなることで、寝汗をかきやすくなり、快適な睡眠が得られないことがあります。
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甲状腺疾患と精神的な不調
甲状腺ホルモンは、脳内の神経伝達物質にも影響を与えます。そのため、甲状腺機能の異常があると、精神的な不安定さや抑うつ状態が引き起こされ、これが不眠や睡眠の質の低下に繋がることがあります。
これらの症状が続く場合、甲状腺の機能異常が原因である可能性があるため、専門医の診断を受け、適切な治療を行うことが重要です。
厚生労働省 - 甲状腺の病気に関する情報
甲状腺機能低下症による睡眠障害の具体的な症状
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが不足することで体の代謝が低下し、さまざまな不調を引き起こします。ここでは、甲状腺機能低下症が原因で起こる睡眠障害の具体的な症状を紹介します。
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過度の眠気と倦怠感
昼間に強い眠気を感じ、長時間の睡眠を必要とすることがあります。しかし、深い眠りが得られず、朝起きても疲れが取れないと感じることが多く、日中もだるさや倦怠感が続きます。 -
夜間の不眠
長時間の睡眠が必要であるにもかかわらず、夜間の不眠症状も現れることがあります。寝つきが悪く、夜中に何度も目が覚めるなど、睡眠の質が低下しやすくなります。これは、甲状腺ホルモンの不足により、体の体温調節機能が乱れ、眠りにくくなるためです。 -
筋肉痛や関節痛による不快感
甲状腺機能低下症は、筋肉や関節にも影響を与え、夜間に筋肉痛や関節痛を感じることがあります。この不快感が睡眠を妨げ、不眠症状を引き起こすことがあります。 -
気分の落ち込みや抑うつ感
甲状腺ホルモンの不足は、精神的な不調を引き起こし、気分の落ち込みや抑うつ感が強くなることがあります。これにより、精神的な不安定さから眠れなくなることもあります。
これらの症状が見られる場合は、甲状腺機能低下症の可能性を疑い、医師の診察を受けることをおすすめします。適切な治療を行うことで、睡眠障害を改善し、生活の質を向上させることができます。
甲状腺機能亢進症による睡眠障害の具体的な症状
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、体の代謝が異常に高まることで、睡眠障害を引き起こします。以下に、甲状腺機能亢進症が原因で起こる睡眠障害の具体的な症状を紹介します。
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寝つきの悪さと夜間の中途覚醒
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、心拍数の増加や体温の上昇、神経系の過敏化が起こり、体が興奮状態になります。その結果、寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めることが多くなります。これにより、十分な睡眠が取れず、日中に疲労感を感じることがあります。 -
動悸や息切れによる睡眠障害
心拍数が増加し、動悸や息切れを感じることがあります。これにより、心臓がドキドキして眠れない、あるいは夜中に動悸で目が覚めるといった症状が見られます。 -
体温調節の不調と寝汗
甲状腺ホルモンの過剰分泌により、体温調節機能が乱れ、寝汗をかきやすくなります。特に、体温が高くなりすぎて眠れない、汗で寝具が濡れて不快感を感じるなど、睡眠環境が悪化し、眠りの質が低下します。 -
精神的な不安定さと不安感
甲状腺ホルモンは、脳内の神経伝達にも影響を与えます。そのため、ホルモンバランスの乱れが原因で不安感や焦燥感、イライラ感が強くなり、眠れないと感じることがあります。また、過度の精神的な緊張が続くことで、夜間の入眠が困難になることもあります。
これらの症状が続く場合は、甲状腺機能亢進症の可能性を考え、医師の診察を受けることが重要です。適切な治療を行うことで、症状を改善し、良質な睡眠を取り戻すことが期待できます。
甲状腺疾患による睡眠障害の対処法と生活習慣改善のポイント
甲状腺疾患による睡眠障害は、適切な治療と生活習慣の見直しで改善が期待できます。以下に、効果的な対処法や生活習慣改善のポイントを紹介します。
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甲状腺ホルモンのバランスを整える治療
甲状腺機能低下症の場合は、ホルモン補充療法(チラーヂンなど)を行い、甲状腺ホルモンのバランスを整えます。甲状腺機能亢進症の場合は、抗甲状腺薬や放射性ヨード療法を用いて、過剰なホルモン分泌を抑える治療を行います。治療によって甲状腺ホルモンのバランスが整うと、睡眠障害も改善されやすくなります。 -
睡眠環境の改善
良質な睡眠を取るために、寝室の環境を整えることが大切です。室温や湿度を適切に保ち、寝具を清潔に保つことで、快適な睡眠環境を作りましょう。また、光や音の影響を受けにくい環境を整えることも重要です。 -
リラックス法の実践
就寝前にリラックスできる習慣を取り入れ、心身を落ち着かせることが大切です。深呼吸や瞑想、ストレッチ、軽い読書などを行い、入眠しやすい状態を作りましょう。スマートフォンやパソコンの使用は、脳を刺激し、眠りを妨げる原因となるため、避けることをおすすめします。 -
規則正しい生活リズムの維持
毎日同じ時間に寝起きすることで、体内時計を整え、入眠しやすくなります。また、日中に適度な運動を行うことで、体が疲れ、夜間の眠りが深くなります。適度な運動は、甲状腺機能の調整にも効果的です。 -
ストレス管理
ストレスは、甲状腺機能に悪影響を与えることがあるため、日常的にストレスを軽減する工夫をしましょう。趣味やリラクゼーション法を取り入れ、心身のリフレッシュを図ることが、睡眠障害の改善に繋がります。
これらの対処法を取り入れることで、甲状腺疾患による睡眠障害を改善し、生活の質を向上させることができます。当院では、甲状腺疾患に関する診察や睡眠障害の相談を随時受け付けておりますので、気になる症状がある場合は、お気軽にご相談ください。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
- 日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患の診断と治療を提供しています。