糖尿病という名称の歴史と課題

「糖尿病」という病名は、血糖値が高くなり、尿に糖が出るという症状から名づけられました。日本語では漢字で「糖(あまい)尿(おしっこ)病(やまい)」と書くため、特に小児や思春期の患者、あるいはそのご家族にとって精神的負担が大きいという問題があります。
また「糖が原因でなる病気」という誤解を生みやすく、生活習慣だけが原因と思われることで、患者に対するスティグマ(偏見)や差別につながることも少なくありません。
国際的な呼称
英語では“Diabetes Mellitus(ダイアベティス・メリータス)”と呼ばれています。“Diabetes”は「通り抜ける」という意味があり、過剰な尿量(多尿)を表すギリシャ語由来の表現です。
なぜ「ダイアベティス」に改称しようとするのか?
スティグマ軽減
日本糖尿病協会(JDA)や患者団体では、糖尿病という病名が差別や誤解を助長しているとして、「ダイアベティス」などの中立的な名称への変更を求める動きが強まっています。
2021年には、日本糖尿病協会が正式に「病名変更について検討を進める」と発表し、SNSなどを中心に多くの患者の声が集まりました。実際、患者の約70%が「糖尿病という名称に違和感を感じる」とのアンケート結果も出ています(出典:JDA 2021年全国患者意識調査)。
国際標準化の流れ
WHO(世界保健機関)やADA(アメリカ糖尿病学会)ではすでに“Diabetes”という用語を公式に採用しており、ICD-11(国際疾病分類第11版)でも「糖尿病(diabetes mellitus)」として統一されています。
ガイドラインと行政の対応
日本糖尿病学会の立場
2023年現在、日本糖尿病学会は名称変更について慎重な立場を取りつつも、スティグマ軽減のための啓発活動を強化しています。
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学会の公式ガイドラインでは「病名に由来する誤解を避けるように配慮すること」と記載
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医師や医療従事者に対しても、説明時に「生活習慣だけが原因ではない」「自己免疫や遺伝など様々な要因がある」と強調することを推奨
厚生労働省の対応
病名の変更は、行政上の大きな影響を伴うため、厚労省でも患者団体の意見を受け、検討会が設置されていますが、正式な改称には至っていません(2024年時点)。
名称変更のメリット・デメリットと今後の展望

メリット
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スティグマの軽減と患者の心理的負担の軽減
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子どもや若年患者が病気を受け入れやすくなる
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社会的な誤解の解消
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国際的な名称との統一
デメリット
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医療現場や保険制度での混乱
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教育資料や医療記録の改訂に伴う費用
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一部で「日本語らしさの喪失」という声も
新たな提案
名称としては「ダイアベティス(diabetes)」や「高血糖症候群」「グルコース代謝異常症候群」なども候補に挙がっていますが、いずれも社会的受容と医療現場での実用性が鍵となります。
論文とデータの裏付け
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Ishikawa et al., Diabetology International (2020):「病名に関する認識と社会的影響」
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WHO ICD-11 Beta Draft (2019):「分類と用語の標準化に関する国際的指針」
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日本糖尿病学会「2023年版 診療ガイドライン」より引用
当院でのサポート

当院では、病名の呼称以上に「患者さんが安心して自分の病気と向き合える環境づくり」を大切にしています。
私たちの取り組み
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中立的な用語を使用:初診時には「血糖を調整するホルモンがうまく働かない病気」などの表現で説明します。
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教育支援:病名に惑わされず、正しい知識を身につけられるようパンフレットや動画を提供。
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患者会との連携:糖尿病患者会と連携し、スティグマに悩む方々への心理支援も行います。
名称がどうあれ、私たちは常に患者さん一人ひとりの尊厳を守り、最善の医療と心のケアを提供し続けます。
監修者プロフィール 院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。