糖尿病のスティグマとアドボカシーについて

糖尿病とスティグマ ─ 現代社会が抱える誤解と偏見

糖尿病は、日本国内で1000万人以上が罹患しているとされる一般的な慢性疾患です(厚生労働省「国民健康・栄養調査」2022年)。しかし、その患者たちは未だに社会からのスティグマ(偏見や差別)に直面しています。これは、糖尿病の理解不足や誤解に起因しており、患者の生活の質(QOL)や治療意欲にも影響を及ぼす深刻な課題です。

代表的な誤解

  • 「糖尿病は自己責任の病気である」

  • 「不摂生な生活の結果だ」

  • 「薬やインスリンは怠け者の証拠」

これらの偏見は、特に2型糖尿病の患者に対して顕著であり、職場・学校・家庭での精神的圧力、さらには医療アクセスの遅れを招いています。

スティグマがもたらす影響 ─ 治療・予後・心理面の悪化

糖尿病スティグマは、単なる社会的問題にとどまりません。臨床的にも深刻な影響を与えます。

精神的影響:

  • うつ病の合併率が高まる(Li C. et al., Diabetes Care, 2008)

  • 自己効力感の低下、自己否定

治療への影響:

  • 治療の自己中断、インスリン拒否

  • 通院遅延や血糖測定の忌避

データによる裏付け:

オーストラリアの研究では、糖尿病スティグマを経験した患者のうち46%が治療継続へのモチベーション低下を報告しています(Browne JL et al., Diabet Med, 2013)。

世界と日本におけるアドボカシー(擁護活動)の取り組み

糖尿病患者の権利を守り、社会的な理解を促す活動として「アドボカシー」が注目されています。

国際的な取り組み

  • IDF(国際糖尿病連合):World Diabetes Dayなどを通じて啓発を行う

  • Beyond Type 1(米国):SNSキャンペーンを展開し、当事者の声を可視化

日本国内の動き

  • 日本糖尿病協会:患者交流会、講演会、SNS配信など

  • #糖尿病は恥ずかしくないというタグで若年層に広がり

新規性と独自性

  • SNSと連動したオンラインアドボカシーが近年急速に拡大

  • 医療者と患者の共創型アプローチが鍵

医療・教育・職場が果たすべき役割

医療現場の対応:

  • 共感的コミュニケーション(患者の語りを聴く)

  • 病状説明時に「なぜ糖尿病になったのか」の個別要因への配慮

教育現場での対応:

  • 保健指導における正確な糖尿病知識の提供

  • 学校でのインスリン使用や血糖測定への理解促進

職場での合理的配慮:

  • 就労継続支援(例:インスリン注射のタイミング確保)

  • 管理職への糖尿病教育の導入

安全性への配慮:

  • 低血糖リスクへの周囲の理解と協力

  • 血糖コントロールに影響しない労働環境の整備

当院でのサポート

 

当院では、糖尿病患者さんが安心して通院・生活できるよう、以下のような支援と取り組みを行っています。

  • 心理的サポート:必要に応じてカウンセリングや心療内科と連携

  • 職場や学校向けの配慮文書作成:血糖測定・インスリン投与の理解促進

  • SNSを活用した啓発:InstagramやYouTubeで「糖尿病のリアル」を配信

  • スタッフ全員がスティグマ教育を受講:差別のない医療提供を実現

  • 患者会の主催・参加支援:孤立せず、仲間とつながれる環境づくり

糖尿病は恥ずかしい病気でも、自己責任だけで語られるべき病気でもありません。私たちは患者様と共に歩み、声を上げ、理解を広げるパートナーでありたいと願っています。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

 

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