糖尿病という名前の語源 ─ ギリシャ時代からの歴史

糖尿病という名前は、古代ギリシャ語の「Diabetes(ディアベーテス)」と、ラテン語の「Mellitus(メリトゥス)」に由来します。
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Diabetes は「流れる」や「通り抜ける」を意味し、尿量が異常に多くなる症状から名付けられました。
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Mellitus は「蜜のような甘さ」を指し、尿の中に糖が含まれることから加えられました。
古代ギリシャの医師アレタイオスは、糖尿病の症状を「水のように体から命が流れ出る病」と記述しています。
17世紀、イギリスの医師が糖尿病患者の尿をなめて甘いことに気づき「Diabetes Mellitus」という名称が広く使われるようになりました(参考:Frier BM. History of diabetes. In: Holt RIG, et al. Textbook of Diabetes, 2021)。
日本語の「糖尿病」という訳語の成り立ち
日本語の「糖尿病」は明治時代に導入された漢訳医学用語で、中国語医学文献を参考に、日本の医学者が考案しました。
「尿に糖が含まれる病気」という特徴から、極めて直訳的に名付けられましたが、実はこの名称にはいくつかの課題もあります。
問題点:
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糖が尿に出ない段階でも糖尿病と診断されることがある(例:HbA1c高値)
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実際には代謝異常やインスリン作用の障害が中心
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病名だけ見ると、誤解を招きやすい
そのため、近年は名称変更を望む声も出てきています。
国際的な名称と診断基準の違い
国際的にも「Diabetes Mellitus」は正式な名称として使われていますが、各国で微妙なニュアンスの違いがあります。
WHO(世界保健機関)の定義(2022年改訂)
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糖尿病は「インスリン分泌または作用の障害による慢性的な高血糖状態」と定義されています。
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尿糖は診断基準には含まれていません。
日本糖尿病学会(JDS)の定義
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2023年改訂ガイドラインにて、糖尿病の診断基準は「空腹時血糖126mg/dL以上」「75gOGTT2時間値200mg/dL以上」「HbA1c6.5%以上」などとされ、尿糖よりも血糖指標が重視されています。
名称を見直す動きとその背景

欧米での議論
米国糖尿病学会(ADA)は、2015年以降「Type 1 diabetes」「Type 2 diabetes」という表記に統一し、「Mellitus」を省略する傾向が強まっています。
日本国内の動き
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日本糖尿病学会や日本医学会では、名称変更について慎重な姿勢ですが、患者・支援団体からは「スティグマ(病名による偏見)」の観点から変更を望む声も存在。
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例:「代謝性高血糖症候群」「高血糖症」などの提案もありますが、普及は限定的です。
新規性と課題
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名称が患者に与える心理的影響(自己管理の意欲低下、社会的偏見)を考慮し、今後さらなる議論が必要です(Yale J Biol Med. 2020 Sep; 93(3): 429–437)。
当院でのサポート

当院では、糖尿病という病名が与える誤解やストレスも含め、患者さんの不安に寄り添いながら治療を進めていきます。
当院の取り組み:
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丁寧な説明:糖尿病の名称の背景も含め、病気の本質について説明します。
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多職種チームによる支援:管理栄養士・看護師・心理士と連携した支援体制
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教育コンテンツの充実:当院オリジナルの動画教材や小冊子を通じて理解を深めていただきます
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オンライン相談やLINEサポート:通院困難な方にも対応できる環境を整えています
病名にとらわれず、「今の健康をよりよくすること」を第一に考える医療を提供しています。
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。