生活習慣病と排尿障害の関係性

排尿障害(頻尿・尿意切迫感・尿漏れ・残尿感など)は、糖尿病・甲状腺疾患・高血圧・脂質異常症・肥満などの慢性疾患と深く関係しています。
各疾患と排尿障害の関連
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糖尿病:自律神経障害による膀胱排尿筋機能の異常(神経因性膀胱)
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甲状腺疾患:甲状腺ホルモンが膀胱・尿道平滑筋の活動に影響(低下症では尿閉傾向、亢進症では頻尿傾向)
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高血圧・脂質異常症:膀胱血流の低下や動脈硬化による機能障害
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肥満:腹圧増加や骨盤底筋の負荷上昇による腹圧性尿失禁、過活動膀胱のリスク
過活動膀胱・頻尿の診断と評価
主な症状
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頻尿(昼間8回以上)
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夜間頻尿(夜間1回以上の排尿)
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尿意切迫感
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切迫性尿失禁
診断のための評価方法
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排尿日誌(頻度・量・失禁の有無)
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残尿量測定(超音波)
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尿検査(感染・糖尿の除外)
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血液検査(甲状腺機能・血糖・腎機能)
過活動膀胱・頻尿の治療薬と適応
1. 抗コリン薬(M3受容体拮抗薬)
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膀胱排尿筋の収縮を抑制し、尿意切迫・頻尿を改善
薬剤名 | 特徴 | 注意点 |
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プロピベリン(バップフォー®) | 即効性あり、夜間頻尿にも有効 | 口渇・便秘・認知機能低下に注意 |
ソリフェナシン(ベシケア®) | M3選択性高く、1日1回で済む | 高齢者の認知症リスクに留意 |
イミダフェナシン(ウリトス®) | M1・M3拮抗、口腔乾燥少なめ | 頻脈・便秘に注意 |
※高齢者や認知機能低下例では慎重投与
2. β3作動薬(β3アドレナリン受容体刺激薬)
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排尿筋弛緩により膀胱容量を増やす
薬剤名 | 特徴 | 注意点 |
ミラベグロン(ベタニス®) | 口渇・便秘が少なく使いやすい | 高血圧・不整脈のある方は注意 |
ビベグロン(ベオーバ®) | β1・β2刺激作用ほぼなし | 高齢者にも比較的安全 |
※β作動薬は抗コリン薬と比べ副作用が少ないため、高齢者や多剤併用例に第一選択されやすい
3. その他の薬剤・治療選択肢
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デュタステリド(前立腺肥大併存例で有効)
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漢方薬(牛車腎気丸、八味地黄丸):体質に応じて処方可能
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骨盤底筋体操・生活指導(カフェイン制限・水分摂取のタイミング)
治療上の注意点と多疾患併存患者での対応

1. 複数薬剤との相互作用に注意
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抗コリン薬+認知症治療薬(ドネペジルなど)→効果相殺の懸念
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SGLT2阻害薬使用中の糖尿病患者→尿量増加が重なると夜間頻尿・脱水リスク
2. 慢性疾患のコントロールが排尿障害改善に寄与
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糖尿病の血糖コントロール改善で神経因性膀胱の進行予防
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甲状腺機能異常の是正で排尿症状が軽減することも
3. フレイル・高齢患者への対応
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骨盤底筋体操、下肢筋トレ、転倒防止策と併せて支援
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頻尿が原因の夜間転倒・睡眠障害の改善も重要な治療目標
当院でのサポート

当院では、糖尿病・甲状腺疾患・高血圧・脂質異常症・肥満を背景に持つ方の排尿障害に対して、以下のような総合的な診療を行っています。
1. 丁寧な問診と初期評価
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生活習慣病と排尿症状の関連を評価し、病態に応じた検査(尿・血液・超音波)を実施
2. 個別に応じた薬剤選定
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併存疾患・服薬状況・年齢に応じて抗コリン薬・β3作動薬を慎重に選択
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副作用や他剤との相互作用を避けるため、総合的な薬歴管理を実施
3. 生活指導と再発予防支援
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骨盤底筋トレーニング、尿意記録指導、食事・水分管理を患者に応じて案内
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夜間頻尿による不眠や転倒リスクへの対応も含めた包括的ケアを行っています
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医