糖尿病患者におけるコロナ後遺症と血糖管理の関係について

コロナ後遺症(ロングCOVID)とは何か?~糖尿病患者が直面するリスク~

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が収束した後にも続く、さまざまな症状——いわゆる「ロングCOVID(長期COVID)」——は、特に糖尿病患者において深刻な影響を与えることが明らかになっています。ロングCOVIDは感染後3カ月以上続く症状であり、疲労感、ブレインフォグ(思考力低下)、息切れ、関節痛、うつ、不眠、集中力の低下など、多岐にわたります。

糖尿病患者に多いロングCOVID症状:

  • 強い倦怠感

  • 睡眠障害

  • 呼吸困難

  • 筋力低下

  • 血糖コントロールの悪化

2023年のLancet誌による大規模調査(Hastie CE, et al.)では、糖尿病患者は健常者と比較してロングCOVIDの発症リスクが約40〜60%高いと報告されています。

ロングCOVIDと血糖値変動の関係

糖尿病患者では、ウイルス感染により血糖値が乱れやすく、回復期においても長期的な影響を及ぼすことが分かっています。特にロングCOVIDでは、インスリン抵抗性の亢進や、サイトカインストームに起因する慢性炎症が関与しています。

血糖管理への影響:

  • 慢性の炎症状態によりインスリン感受性が低下

  • 感染後も肝臓での糖新生が亢進し、高血糖が持続

  • 自律神経障害が進行し、低血糖感知能力が低下

重要な数値データ:

  • JAMA誌(2022)では、COVID-19感染後6か月以内にHbA1cが0.3〜0.6%上昇する傾向があると報告(Xie Y, et al.)

  • 感染後新たに糖尿病を発症するケースも報告されており、その割合は**全体の2〜4%**に達する(Rubino F, et al. Nature Reviews Endocrinology, 2021)

慢性炎症と糖尿病の関係性 ~ロングCOVIDが糖代謝に与える慢性影響~

ロングCOVIDにおける炎症の持続は、糖尿病の病態悪化と深く関連しています。炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-αなど)は、インスリン抵抗性を亢進させ、膵β細胞機能にも悪影響を与えます。

炎症と代謝異常のメカニズム:

  • サイトカインの慢性的上昇 → インスリン受容体の働きが阻害される

  • 肝臓・骨格筋での糖取り込み低下

  • 膵臓β細胞の機能低下 → インスリン分泌不全

新規性・独自性:

  • ロングCOVIDは、一過性の感染ではなく“炎症性メタボリックシンドローム”としての側面を持つ

  • 糖尿病管理において、単なる血糖コントロールだけでなく“炎症マーカー”の管理が今後重要になるという新たな視点

早期診断・介入の意義と治療戦略

早期診断の重要性:

  • ロングCOVIDを見過ごすことで血糖管理がさらに困難に

  • 疲労感やブレインフォグを“加齢やストレス”と誤認して放置されるケースも

早期介入の治療効果:

  • 抗炎症作用を持つ食事療法(地中海式など)や運動療法が有効

  • ビタミンD、オメガ3脂肪酸の補充によるサイトカイン抑制効果(Calder PC, Nutrients, 2020)

  • GLP-1受容体作動薬による血糖管理と炎症軽減の二重効果が期待されている

数値的根拠:

  • 2022年の欧州糖尿病学会(EASD)で報告された研究では、GLP-1製剤使用者のうちロングCOVID症状が**有意に軽減した割合が37%**と報告(EASD Annual Meeting Abstracts, 2022)

当院でのサポート

 

当院では、糖尿病とコロナ後遺症の関係性に着目し、以下のような包括的診療体制を整えています。

サポート内容:

  • 感染後の疲労感・不眠・集中力低下などのロングCOVID症状への問診と評価

  • 血糖コントロール状況のチェック(HbA1c、CGMによるモニタリング)

  • 慢性炎症マーカー(CRP、IL-6など)の測定(提携施設にて)

  • 必要に応じた栄養指導・運動療法プランの作成

  • 患者一人ひとりの症状とライフスタイルに応じた薬物療法の調整

当院の特徴:

  • 糖尿病・甲状腺・内分泌の専門医がトータルで診療を提供

  • 慢性疾患と感染後遺症の両面を考慮した治療戦略

  • 地域連携による迅速な検査・紹介体制(牧田総合病院などと提携)

感染後の「なんとなく不調」にも真摯に対応し、患者さまの生活の質を回復する医療を提供しています。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献:

  1. Hastie CE, et al. "Diabetes and risk of long COVID." Lancet, 2023.

  2. Xie Y, et al. "Long-term cardiovascular outcomes of COVID-19." JAMA, 2022.

  3. Rubino F, et al. "New-Onset Diabetes in COVID-19." Nat Rev Endocrinol, 2021.

  4. Calder PC, et al. "Nutrition, immunity and COVID-19." Nutrients, 2020.

  5. EASD Annual Meeting Abstracts, 2022.

 

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