肥満とがん—その「確かな相関性」

近年の疫学研究により、肥満が複数のがんのリスク因子であることが明らかになっています。特に、女性ホルモン(エストロゲン)依存性の腫瘍との関連性が強く、閉経後女性における影響が顕著です。
肥満が関連するがん種(WHO・IARC報告より)
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乳がん(閉経後)
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子宮体がん
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卵巣がん
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大腸がん、腎がん、食道腺がん、胆のうがん など
背景にある代謝・ホルモン機序
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内臓脂肪によるアロマターゼ活性上昇 → エストロゲン産生の増加
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高インスリン血症・IGF-1上昇 → がん細胞の増殖刺激[1]
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炎症性サイトカイン(IL-6, TNF-α) → 慢性炎症と細胞異常誘導
エストロゲン依存性腫瘍における肥満の役割
子宮体がんと肥満
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日本の研究(JPHC Study)でも、BMI 27以上で子宮体がんリスクが約2.8倍[2]
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脂肪組織でのエストロゲン産生が持続的に子宮内膜を刺激
閉経後乳がん
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閉経後では卵巣のエストロゲン分泌が停止し、 → 脂肪組織由来のエストロゲンが主な供給源に
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Nurses’ Health Studyでは、BMI30以上で乳がんリスクが約1.5〜2倍[3]
卵巣がん
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明確な機序は未解明だが、肥満者での全体的ながんリスク上昇傾向が報告[4]
肥満とがんの“サイレントリンク”—慢性炎症と酸化ストレス
慢性炎症の持続が発がん環境に
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肥満によりTNF-α、IL-6、CRPが慢性的に上昇
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これらがDNA損傷を促進、アポトーシス抑制や細胞分裂異常を誘導
酸化ストレスの増大
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脂肪細胞がROS(活性酸素)を産生し、がん発症の引き金に
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ミトコンドリア異常、テロメア短縮などの老化促進因子にも関与
予防のためにできること—体重管理の重要性

減量の効果
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体重5〜10%の減少でエストロゲン・インスリン・CRPの低下が確認[5]
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WHI-DM試験では、減量と植物中心食により乳がんリスクが約20%低下[6]
推奨される生活習慣
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1日30分以上の有酸素運動(週150分)
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高GI食・加工食品の制限と食物繊維・大豆・緑黄色野菜の摂取増加
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禁煙・適度な飲酒・ストレス管理・良質な睡眠
がんサバイバーへの意義
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肥満を是正することで、がん再発リスクも低減[7]
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特にホルモン療法中の乳がん患者では重要な介入ポイント
当院でのサポート

当院では、がん予防の視点からも体重・代謝・ホルモンバランスの管理を重視しています。
1. リスク評価と定期モニタリング
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BMI・体脂肪率・内臓脂肪レベル・血中ホルモン(エストラジオールなど)測定
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インスリン、CRP、HbA1c、脂質、尿酸などの包括的代謝評価
2. 体重コントロール支援
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管理栄養士によるがん予防を見据えた栄養指導(低エストロゲン食など)
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必要に応じてGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬などの薬物治療も提案
3. 婦人科・がん専門医との連携体制
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乳腺外科・婦人科・腫瘍内科と連携した早期発見・予防指導
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がん既往歴のある方への再発予防・体重管理支援
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。
引用文献
[1] Renehan AG, et al. Lancet. 2008;371(9612):569–578.
[2] Setiawan VW, et al. J Clin Oncol. 2013;31(27):3435–3442.
[3] Eliassen AH, et al. JAMA. 2006;295(2):190–198.
[4] Schouten LJ, et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2008;17(1):231–239.
[5] Friedenreich CM, et al. J Clin Oncol. 2010;28(24):4124–4130.
[6] Prentice RL, et al. JAMA. 2006;295(6):629–642.
[7] Rock CL, et al. CA Cancer J Clin. 2012;62(4):243–274.