遺伝性高血圧(Liddle症候群など)のスクリーニングについて

遺伝性高血圧とは?— 若年発症・治療抵抗性の裏に潜む疾患群

高血圧は一般に「生活習慣病」として知られていますが、全体の5〜10%は二次性高血圧とされ、その中には遺伝的素因による高血圧が存在します。その代表的な疾患が「Liddle症候群」や「グルココルチコイド反応性高アルドステロン症」などの**単一遺伝子異常に起因する高血圧(モノジェニック高血圧)**です。

遺伝性高血圧の特徴

  • 若年発症(通常30歳未満)

  • 家族歴(親兄弟に高血圧が多い)

  • 低レニン・低アルドステロン血症

  • 通常の降圧薬が効きにくい(治療抵抗性)

JSH 2024での記載

日本高血圧学会ガイドライン2024(JSH 2024)では、若年発症や薬剤抵抗性の症例では遺伝性高血圧の可能性を考慮した精査が必要とされ、スクリーニングの意義が強調されています[1]。

代表的な疾患とスクリーニングの指標

1. Liddle症候群(ENaCチャネル異常)

  • 遺伝形式:常染色体優性遺伝

  • 機序:腎の集合管におけるENaCの活性過剰 → Na再吸収増加 → 高血圧

  • 特徴:低カリウム血症、低レニン、低アルドステロン

  • 治療:アミロライドやトリアムテレン(ENaC阻害薬)が著効

2. グルココルチコイド反応性高アルドステロン症(GRA)

  • 遺伝形式:常染色体優性

  • 治療:少量のデキサメタゾンやプレドニゾロンで正常化

  • 検査:血中11-deoxycortisol上昇やCYP11B1/CYP11B2融合遺伝子の同定

3. Apparent Mineralocorticoid Excess(AME)

  • 酵素11β-HSD2の欠損 → コルチゾールによるMR刺激

  • 特徴:低カリウム血症・低レニン・低アルドステロン、重症な若年性高血圧

スクリーニング検査の流れ

  1. 血中レニン活性・アルドステロン濃度の測定

  2. 血清カリウム値

  3. 家族歴・年齢・治療歴の確認

  4. 必要に応じて遺伝子検査・ホルモン負荷試験を追加

最新の研究・文献に見るエビデンスと診断率

遺伝性高血圧の頻度

  • 一般高血圧患者の中でのLiddle症候群の頻度は**0.2〜0.5%**とされる[2]

  • 若年発症・家族歴ありに限定すると5%以上に存在する可能性も[3]

注目の研究例

  • Scholl et al. (2013):薬剤抵抗性高血圧の患者144人中、8例でLiddle症候群関連遺伝子変異を同定[4]

  • Sabatine et al. (2021):低レニン高血圧患者のうち、ENaC過活性を示す例にアミロライドが有効との報告[5]

診断の新規性と独自性

  • 日本では遺伝性高血圧の認知がまだ低い → 家庭血圧・電解質評価・レニン/アルドステロン比の普及が急務

  • 家族歴と血液検査をもとにした簡易スクリーニングスコアの開発も進行中

早期発見・適切治療の意義と安全性

早期診断のメリット

  • 通常のARB・Ca拮抗薬が無効でも、特異的治療で劇的改善が可能

  • 合併症(脳卒中・心肥大・腎障害)の予防に直結

  • 家族への遺伝カウンセリングと早期介入にもつながる

治療の安全性

  • ENaC阻害薬やグルココルチコイドなど、既存薬で対応可能

  • 効果の判定が明確(数日〜1週間で血圧正常化)

  • 小児や若年者にも比較的安全に使用可能

数値で見る治療効果

  • Liddle症候群に対してアミロライド投与後、収縮期血圧が平均20〜30mmHg低下[6]

  • AMEでは、スピロノラクトン+グルココルチコイド併用で腎機能の進行抑制が確認[7]

当院でのサポート

 

当院では、若年性・難治性高血圧の診療において遺伝性高血圧の可能性を常に念頭に置いた評価と治療を実施しています。

1. 詳細な初診問診と検査

  • 若年発症・家族歴・薬剤反応を詳細に確認

  • 血中レニン・アルドステロン・カリウム・ナトリウムの測定

  • 必要に応じて副腎CT・尿中ステロイド測定なども行います

2. 遺伝子検査の実施連携

  • 希少疾患研究機関との連携によるLiddle症候群・GRAの遺伝子解析

  • 遺伝性疾患が判明した場合は家族スクリーニングの提案

3. 特異的薬剤療法の導入

  • アミロライドやトリアムテレンを用いたENaC阻害治療

  • GRAに対してはステロイド少量投与の導入

  • スピロノラクトン、イプラリスチドなど個別症例に応じた薬剤選択

4. 家庭血圧と長期管理体制

  • 家庭血圧モニタリングと治療反応の数値化

  • 将来の妊娠・出産を考慮した女性への支援

  • 家族歴に基づいた他のご家族への早期介入も実施


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献

[1] 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(JSH 2024). 2024.
[2] Geller DS, et al. Liddle syndrome: clinical and genetic spectrum. Hypertension. 1998;31(5):1040–1045.
[3] Funder JW, et al. Primary aldosteronism and other forms of monogenic hypertension. Nat Rev Endocrinol. 2016;12(10):575–586.
[4] Scholl UI, et al. Hypertension with electrolyte abnormalities due to mutations in epithelial sodium channel subunits. Nat Genet. 2013;45(5):513–517.
[5] Sabatine MS, et al. Clinical response to amiloride in patients with apparent monogenic hypertension. J Clin Hypertens. 2021;23(1):14–20.
[6] Warnock DG. Liddle syndrome: an autosomal dominant form of human hypertension. Kidney Int. 1998;53(1):18–24.
[7] Wilson FH, et al. Human hypertension caused by mutations in WNK kinases. Science. 2001;293(5532):1107–1112.

 

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