魚油製剤(EPA・DHA)の効果は限定的?研究の再評価について

魚油製剤とは?— EPA・DHAの基礎知識と期待されてきた効果

魚油製剤は、青魚などに多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸である**EPA(エイコサペンタエン酸)およびDHA(ドコサヘキサエン酸)**を有効成分とする医薬品やサプリメントです。

主な作用機序

  • 中性脂肪(TG)の低下作用

  • 血小板凝集の抑制(抗血栓作用)

  • 抗炎症作用、内皮機能の改善

これまでの期待

  • TGを下げ、動脈硬化性疾患(心筋梗塞・脳卒中)を予防

  • 脂質異常症や糖尿病患者における補助療法としての活用

最近の大規模研究による「再評価」の動き

REDUCE-IT試験(2018)

  • 高用量EPA製剤(イコサペントエチル、4g/日)使用

  • スタチン併用下のTG 135〜499mg/dLの患者で、主要心血管イベントを25%減少[1]

STRENGTH試験(2020)

  • EPA+DHAの混合製剤(4g/日)使用

  • REDUCE-ITとほぼ同条件でイベント抑制効果は認められず → 早期終了[2]

主要な違い

項目 REDUCE-IT STRENGTH
製剤 純粋EPA EPA+DHA混合
溶媒 ミネラルオイル コーン油
効果 有意なイベント減少 有意差なし

新規性・独自性

  • 「EPA単体は有効、DHA混合では効果が相殺される可能性」

  • ミネラルオイルの対照としての**プラセボ効果(有害性)**の影響も議論あり

魚油製剤は“誰に効くのか”?効果の限定性について

効果が期待できる層

  • 高TG(150mg/dL以上)+スタチン使用中の2次予防患者

  • 糖尿病・冠動脈疾患・慢性腎臓病を有する高リスク群

効果が限定的なケース

  • LDL-C管理が不十分な患者 → スタチンの方が優先

  • 魚油のみでの一次予防(健康な人向け) → 有意な予防効果なし[3]

  • DHAの含有量が高い製剤 → LDL-Cを上昇させる場合がある

安全性の注意点

  • 出血傾向(特に抗凝固薬・抗血小板薬併用時)

  • 消化器症状(腹部膨満、魚臭など)

  • 心房細動のリスクが増加する可能性(REDUCE-ITの副次解析)[4]

ガイドラインの動向と臨床的意義の再整理

日本動脈硬化学会(JAS 2022)

  • TG高値を合併するスタチン治療中の患者には「高純度EPA製剤の使用が考慮される」[5]

  • 一次予防では「エビデンスは限定的」と明記

欧州心臓病学会(ESC/EAS)

  • REDUCE-ITに基づき「Icosapent ethyl(EPA)の使用はIIa推奨」[6]

臨床現場での活用方針

  • LDL-C管理が十分な患者におけるTG残余リスクの補強

  • 糖尿病・冠動脈疾患合併例での追加治療として位置づけ

当院でのサポート

 

当院では、魚油製剤の「効果が見込める症例」を見極めたうえで、必要最小限での導入を行っています。

1. 脂質全体のバランス評価

  • LDL-C、non-HDL-C、TG、sdLDL、Lp(a)、hs-CRPなどを測定

  • 食事内容や魚摂取量のヒアリングも実施

2. EPA製剤の導入基準

  • TGが150mg/dL以上で、スタチン使用中にもかかわらず残余リスクが高い場合

  • 糖尿病・脳心血管疾患・腎疾患を合併している方

3. 他薬剤との相乗効果を考慮

  • スタチン+EPAの併用、必要に応じてSGLT2阻害薬やGLP-1作動薬も併用

4. 栄養指導と運動支援

  • 青魚の摂取やn-3系脂肪酸サプリメントの正しい使い方

  • 中性脂肪を下げるための糖質制限や有酸素運動の提案


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献

[1] Bhatt DL, et al. N Engl J Med. 2019;380:11–22.
[2] Nicholls SJ, et al. JAMA. 2020;324(22):2268–2280.
[3] Abdelhamid AS, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020;3(3):CD003177.
[4] Gencer B, et al. Circulation. 2021;144(3):198–209.
[5] 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.
[6] Mach F, et al. Eur Heart J. 2020;41(1):111–188.

 

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