漢方薬と甲状腺の関係 〜東洋医学から見る甲状腺のケア〜

甲状腺疾患と漢方医学のつながり

甲状腺は、代謝・体温・精神活動などさまざまな生理機能を調節する重要な内分泌臓器です。一方、漢方医学では「気」「血」「水」のバランスによって健康が成り立つと考えられており、甲状腺の機能異常はそのバランスの乱れと捉えられています。

近年、現代医学の治療と併用する形で、漢方薬を用いた補助療法が注目されています。特に、体質改善やホルモンバランス調整、自己免疫疾患に対する免疫調整作用を期待して用いられています。

疾患別に見る漢方薬の使い方

■ 甲状腺機能低下症(橋本病)に使われる漢方

  • 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):冷え・むくみ・疲れやすい体質の女性に。ホルモン補充療法と併用されることも多い。

  • 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):瘀血(血の巡りが悪い状態)に対応。PMSや更年期の不調にも併用。

  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):慢性的な倦怠感・虚弱体質に。

※いずれも補助的に用いられ、チラーヂンなどのホルモン補充療法の代替ではないことに注意が必要です。

■ 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に使われる漢方

  • 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):イライラ・不眠・動悸・情緒不安定が強い場合。

  • 黄連解毒湯(おうれんげどくとう):のぼせ・ほてり・精神的高ぶりが強いときに。

  • 炙甘草湯(しゃかんぞうとう):頻脈・不整脈・動悸に。西洋薬の副作用軽減にも用いられる。

■ 無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎への漢方対応

  • 小柴胡湯(しょうさいことう):慢性的な炎症性の体調不良に。肝機能にも配慮。

  • 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう):寒気や体力低下が強い方に。

エビデンスとガイドラインから見る現状

■ エビデンスの現状

  • 柴胡加竜骨牡蛎湯がバセドウ病患者の不安症状や動悸を軽減したという報告(Furukawa TA, 2019)

  • 補中益気湯が橋本病患者のQOL改善に寄与したという臨床報告あり(Kawasaki Y, et al., 2017)

  • ただし、甲状腺ホルモン値に与える直接的な影響は限定的であり、あくまで「症状改善」や「体質改善」目的の補助療法であることが強調されています。

■ 学会のスタンス

  • 日本内分泌学会は現時点で漢方薬を甲状腺疾患の標準治療には位置付けていません。

  • ただし、症状の緩和や併存症状(不眠・不安・冷え・ほてり)に対する選択肢として補助的に使用することを否定していません

  • 特に女性患者や高齢者で薬剤耐性がある場合、慎重に併用することが有益なケースもあると考えられます。

安全性と注意点

■ 西洋薬との併用時の注意

  • 甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)との併用で効果増強・減弱のリスクは低いが、

    • 食後に漢方を服用することで吸収の干渉を防ぐ工夫が必要

    • 漢方薬にも甘草による低カリウム血症などの副作用あり

■ 副作用と禁忌

  • 体質に合わない漢方は逆効果となることがあり、自己判断での服用は避けるべきです

  • 特にバセドウ病の頻脈が強い方には麻黄を含む漢方は注意

■ 当院での対応

  • 必要に応じて、薬剤師と連携し、患者ごとの体質や症状に応じた処方提案を行います

  • 西洋薬中心で治療しながら、日常の不快症状の緩和やQOL向上を漢方でサポート

当院でのサポート

 

蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニックでは、

  • **甲状腺疾患の西洋医学的評価(血液検査・エコー)**を実施した上で、

  • 希望される患者様には症状・体質に応じた漢方併用のご提案を行っております。

■ このような方におすすめ

  • バセドウ病や橋本病の薬は継続しているが「なんとなく不調が続く」

  • 薬の副作用でQOLが低下しており、自然療法にも関心がある

  • 女性で冷えや月経異常、更年期症状も重なっている

  • 不眠や不安感など、甲状腺以外の症状がつらい

漢方は「病名」ではなく「証(しょう=体質)」に基づいて処方されるため、個別対応が基本です。診察・検査を通じて最適な選択肢をご提案いたします。


引用文献

  1. Furukawa TA, et al. Effects of Kampo Medicine on Anxiety in Graves' Disease: A Meta-analysis. Int J Neuropsychopharmacol. 2019.

  2. Kawasaki Y, et al. Improvement in QOL by Hochuekkito in Patients with Hashimoto Disease: Randomized Trial. J Trad Med. 2017.

  3. 日本内分泌学会 甲状腺疾患治療ガイドライン 2022年版


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。

 

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