COVID-19と甲状腺の関係 〜その全体像〜

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、主に呼吸器系に影響を与える疾患として知られていますが、近年の研究により、内分泌系への影響、特に甲状腺機能異常との関連が注目されています。
■ COVID-19による甲状腺機能異常の頻度
複数の報告によると、COVID-19に罹患した患者のうち、最大20〜30%に何らかの甲状腺機能異常が認められたとする研究もあります(Lania A et al., 2020)。
主に報告されているのは:
-
無痛性甲状腺炎
-
亜急性甲状腺炎
-
非甲状腺性疾患症候群(NTIS: non-thyroidal illness syndrome)
-
バセドウ病の再燃 など
■ ウイルスによる直接的・間接的影響
-
SARS-CoV-2はACE2受容体を介して甲状腺組織に侵入する可能性があり、直接的なウイルス感染による甲状腺細胞障害が指摘されています(Rotondi M et al., 2021)。
-
また、サイトカインストームや免疫応答の異常によって、自己免疫性疾患の引き金となることもあります。
代表的な甲状腺異常と症状の具体例
■ 無痛性甲状腺炎
COVID-19罹患後、数週間以内に発症するケースが多く、以下のような経過を辿ります。
-
TSH低下、FT4上昇(甲状腺中毒症状)
-
倦怠感、動悸、発汗、手の震えなど
-
数週間~数ヶ月で自然に正常化することも
■ 亜急性甲状腺炎
発熱・頸部痛を伴うケースもあり、明確にCOVID-19罹患後に発症したという症例報告が複数存在します。
-
エコーで低エコー域+血流低下を示す
-
血液検査でCRP・ESR高値
-
NSAIDsやステロイドが有効
■ 非甲状腺性疾患症候群(NTIS)
重症COVID-19患者でよく認められる甲状腺ホルモン低下
-
FT3低下が主、TSHは正常~低値
-
一時的であり、治療対象ではないことが多い
■ バセドウ病の発症や再燃
-
COVID-19感染後にバセドウ病を新規発症、あるいは寛解中の患者が再燃した報告も
-
精神的・肉体的ストレスによる免疫系への影響が関与すると考えられています
最新ガイドライン・研究報告に見るCOVID後の甲状腺管理
■ 日本内分泌学会の提言
日本内分泌学会では、COVID-19に関連した甲状腺疾患の早期発見のため、以下の対応を推奨しています:
-
発熱、動悸、倦怠感などがCOVID回復後も続く場合は甲状腺ホルモン検査を推奨
-
自己免疫性疾患(バセドウ病・橋本病)の既往がある患者は特に注意
■ 欧州甲状腺学会(ETA)と米国甲状腺学会(ATA)からの見解
-
COVID-19後の無痛性甲状腺炎は多くの場合経過観察で自然回復することが多いが、
-
バセドウ病や重度の甲状腺中毒症状では抗甲状腺薬やβブロッカーによる治療が必要
■ 数字でみるCOVIDと甲状腺
-
COVID-19によりTSHが抑制された患者の割合:22.5%(Lania A, 2020)
-
COVID後に無痛性甲状腺炎を発症した患者:約15%(Khoo B et al., 2021)
早期発見・治療の意義と当院の対応

■ 早期の検査が安心につながります
COVID-19罹患後に現れる「なんとなく不調」——この背景に甲状腺機能の異常が潜んでいることがあります。
当院では以下の対応を行っております:
-
TSH・FT3・FT4の血液検査を即日実施
-
**頸部超音波検査(甲状腺エコー)**を院内で実施
-
必要に応じて**抗体検査(TRAb, TgAb, TPOAb)**も追加
■ 甲状腺異常は放置しないことが大切
-
無痛性甲状腺炎でも、症状が強ければ内服治療(β遮断薬など)で症状緩和
-
橋本病やバセドウ病へと移行するケースもあるため、定期フォローが必要
■ 当院の強み
-
内分泌代謝専門医による丁寧な診察
-
甲状腺ホルモン結果の即日返却(午前採血の場合)
-
COVID後遺症の視点からの全身的な評価・サポート
当院でのサポート

蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニックでは、COVID-19後の体調不良に対して甲状腺評価を含む包括的なアプローチを提供しています。
■ 対応内容
-
甲状腺ホルモン検査(TSH, FT3, FT4)
-
自己抗体検査(TPOAb, TgAb, TRAb)
-
頸部超音波検査(甲状腺・リンパ節)
-
必要に応じて心電図、血糖、CRPなど全身評価
-
精神的疲労や不眠のご相談にも対応
■ こんな症状がある方はご相談ください
-
コロナ回復後も倦怠感や動悸、発汗、のぼせ、微熱が続いている
-
首元の違和感や腫れを感じる
-
橋本病・バセドウ病のご家族がいる
-
定期的に甲状腺をチェックしておきたい
当院では、内分泌・甲状腺専門医が一人ひとりの症状にあわせて診察・検査を行い、必要に応じて治療・紹介を行っています。まずはお気軽にご相談ください。
引用文献
-
Lania A, Sandri MT, Cellini M, et al. Thyrotoxicosis in patients with COVID-19: the THYRCOV study. J Clin Endocrinol Metab. 2020.
-
Rotondi M, Coperchini F, Ricci G, et al. Detection of SARS-CoV-2 RNA in thyroid tissues of COVID-19 autopsy cases. J Endocrinol Invest. 2021.
-
Khoo B, Tan T, Clarke SA, et al. Thyroid Function Before, During, and After COVID-19. J Clin Endocrinol Metab. 2021.
-
日本内分泌学会 COVID-19と内分泌疾患に関する提言(2022)
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
-
日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
-
日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。