家族性高コレステロール血症(FH)とは

■家族性高コレステロール血症(FH)の概要
家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia, FH)とは、遺伝的にLDLコレステロール(いわゆる"悪玉"コレステロール)が非常に高くなる疾患で、動脈硬化性疾患(心筋梗塞や狭心症)を若年で発症しやすくなる病気です。
FHは常染色体優性遺伝形式をとるため、両親のどちらかがFHであれば約50%の確率で子どもに遺伝します。日本人では約300〜500人に1人の割合でFHが存在するとされ【1】、決して稀な病気ではありません。
■ FHの種類
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ヘテロ接合体FH(HeFH):片方の親から変異を受け継ぐタイプ。LDLコレステロール値は180〜300mg/dL程度。
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ホモ接合体FH(HoFH):両親から変異を受け継ぐ稀なタイプ。LDL-C値は500mg/dLを超えることもあり、未治療では10代で心筋梗塞を起こすこともあります。
■ 発見が遅れがちな理由
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LDL-C高値のみでは無症状
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家族歴が聞かれない・忘れられている
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"体質"と誤認されがち
FHの診断基準と最新ガイドライン
■ 日本動脈硬化学会の診断基準(2022年改訂)【2】
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LDL-C ≥ 180 mg/dL
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腱黄色腫の存在(アキレス腱や手の甲)
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FHの家族歴(一親等内)
これらのうち2つ以上でFH疑い、3つすべてでFHと診断されます。加えて、近年では遺伝子解析(LDLR, APOB, PCSK9など)による確定診断が推奨されています。
■ 最新ガイドラインでのポイント
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早期スクリーニングの推奨:日本動脈硬化学会では、LDL≥170mg/dL以上の10代患者や、家族歴がある人は積極的にFHスクリーニングを受けるべきとしています。
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治療目標の厳格化:心血管リスクが高いFH患者ではLDL-C < 70mg/dLを目標に設定【3】
FHの治療と新しい治療薬
■ 治療の基本:食事・運動+薬物療法
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食事療法や運動だけではLDL-Cを十分に下げることが難しく、多くの場合、スタチン系薬剤を中心とした薬物療法が必要です。
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二次薬として**エゼチミブ(ゼチーア)やPCSK9阻害薬(レパーサ・プラルエント)**が用いられます。
■ 新規治療薬:
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インクレチン薬との併用:糖尿病合併例にてGLP-1受容体作動薬が動脈硬化抑制に有効とされ、LDL-Cも低下する例が報告【4】
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小干渉RNA(siRNA)製剤:2022年に承認されたInclisiranはPCSK9遺伝子の発現を抑制し、長期的にLDL-Cを安定して低下させます。
■ HoFHへの特別な対応
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LDLアフェレーシス(LDL吸着療法)
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エボロクマブやロミタピドなどの新薬併用
放置のリスクと早期診断の重要性

■ FHを放置するとどうなるか?
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30代で心筋梗塞を発症するケースもあり
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実際に未治療FH患者の冠動脈疾患の発症率は10年で50%を超えるとの報告も【5】
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LDL-Cが300mg/dLを超える人の中には、10代ですでに冠動脈にプラーク形成が始まっていることも
■ 早期診断・介入のインパクト
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スタチン導入で冠動脈イベントは50%以上減少【6】
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家族へのカスケードスクリーニングで未診断FHを早期発見し、心血管イベント予防が可能
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子どもへの予防的介入で将来のQOLを大きく改善
当院でのサポート

■ 当院の特徴
当院は、内分泌代謝専門のクリニックとして、家族性高コレステロール血症の診断と治療に専門的に対応しています。
■ 提供する医療サービス
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LDL-Cやアポリポ蛋白、リポ蛋白(a)などの詳細な脂質検査
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PCSK9阻害薬を含む最新治療薬の処方と管理
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心血管リスク評価(頸動脈エコー、心電図、BNP測定)
- アキレス腱エコー検査:腱黄色腫の有無を非侵襲的に評価し、FH診断に重要な補助情報を提供します
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家族へのカスケードスクリーニング支援
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専門医による生活指導
■ このような方はご相談ください
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健診でLDLコレステロールが180mg/dLを超えていた
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「若くして心筋梗塞」の家族歴がある
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コレステロールが高いのに、肥満や糖尿病がない
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以前の病院で「体質」と言われたが不安が残る
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子どもの健診でLDLが高かったが詳しい説明がなかった
LDLコレステロールが高くても、症状が出ないうちから対策を始めることが、将来の大きな病気を防ぐ第一歩です。
まずは一度、当院にて専門医による総合的な評価をお受けください。必要に応じて、アキレス腱エコーを含めた丁寧な検査を実施いたします。
引用文献
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Mabuchi H, et al. “Homozygous familial hypercholesterolemia in Japan.” Am J Cardiol. 1992.
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日本動脈硬化学会 家族性高コレステロール血症診療ガイドライン 2022年版
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Mach F, et al. “ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias: 2019.” Eur Heart J. 2020.
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Marso SP, et al. "Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes." N Engl J Med. 2016.
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Harada-Shiba M, et al. "Current management of familial hypercholesterolemia in Japan." J Atheroscler Thromb. 2018.
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Versmissen J, et al. "Efficacy of statins in familial hypercholesterolemia: a long term cohort study." BMJ. 2008.
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。