HbA1cのJDS値とNGSP値の違いについて:なぜこのようなことになったのか

HbA1cとは何か ─ 糖尿病管理の中核指標

HbA1c(ヘモグロビンA1c)は、過去1~2ヶ月の平均的な血糖値を反映する重要な指標です。赤血球中のヘモグロビンと血中のブドウ糖が結合してできるもので、糖尿病の診断・治療・経過観察に欠かせません。

HbA1cは以下の理由から重要です:

  • 毎日の変動に左右されず安定している

  • 空腹時や食後の血糖値に関係なく評価可能

  • 合併症予防に関する多くのエビデンスがある

たとえばUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)では、HbA1cの1%低下により糖尿病合併症のリスクが大幅に低下することが報告されています(UKPDS Group, Lancet. 1998)

JDS値とNGSP値とは ─ その定義と違い

日本では、かつてHbA1cはJDS(Japan Diabetes Society:日本糖尿病学会)値で報告されていました。これは日本独自の測定法に基づくもので、NGSP(National Glycohemoglobin Standardization Program:米国標準化プログラム)値とは数値が異なります。

違いの概要:

  • JDS値 = NGSP値 - 0.4%

つまり、JDSで6.0%であれば、NGSPでは6.4%に相当します。

この違いは、測定方法の基準と校正方法に由来しており、JDSはHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法に基づいており、NGSPはDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)法に準拠しています。

なぜNGSP値へ統一されたのか ─ 国際標準化の波

JDSとNGSPという二つの指標が存在したことで、海外の論文との比較が困難、患者教育にも混乱が生じていました。そのため、2012年から日本糖尿病学会はNGSP値での報告に統一するよう指針を変更しました(日本糖尿病学会「HbA1c値の国際標準化」)

背景:

  • グローバルに統一された診断基準が必要だった

  • 国際共同研究や海外との比較を容易にする

  • 患者がインターネットなどで情報を得る際の混乱防止

この改訂により、国内の臨床現場もNGSPへの移行が進み、現在ではほぼ全ての医療機関でNGSP基準に準じた報告がなされています。

実際の臨床での影響と注意点

表記の混在:

一部の検査報告書では今でも「JDS(NGSP-0.4%)相当」などと記載されることがあり、医療者・患者双方に混乱を招く場合があります。

患者説明のポイント:

  • "以前と数値が変わったように見えるが、測定法が違うだけ"

  • "病状の変化ではないので安心して良い"

数字で見る違い:

JDS値 NGSP値
5.8% 6.2%
6.1% 6.5%
6.5% 6.9%
7.0% 7.4%

このように、わずか0.4%の差ではありますが、診断や治療目標に関わる重要な数値です。

当院でのサポート

 

当院ではHbA1cの測定において、国際基準であるNGSP値を用いて患者さまにわかりやすくご説明しています。さらに、以下のようなサポートを行っております:

  • 即日結果報告:その場でHbA1cを測定し、診察中にフィードバック

  • 過去データの変換対応:JDS値の記録がある方にはNGSP値への変換を行い比較

  • 丁寧な患者説明:糖尿病教育指導士によるカウンセリングも実施

  • 多職種連携:管理栄養士・看護師・薬剤師とのチーム医療で血糖管理をサポート

糖尿病は長期戦ですが、正しい数値の理解と継続したケアがあれば、合併症の予防は十分可能です。


監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


【参考文献】

  1. The Diabetes Control and Complications Trial Research Group. (1993). The effect of intensive treatment of diabetes on the development and progression of long-term complications. N Engl J Med.

  2. 日本糖尿病学会. HbA1c(ヘモグロビンA1c)値の国際標準化について(2012年)

  3. NGSP公式サイト:https://www.ngsp.org

  4. 日本臨床検査標準協議会報告(JCCLS)

 

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