HDLコレステロールとは?—「善玉」の本当の役割

HDLコレステロール(高比重リポタンパク質)は、一般に“善玉”とされ、動脈硬化を防ぐ存在として知られています。主な役割は**余分なコレステロールを末梢組織から肝臓に戻す(逆コレステロール輸送)**ことです。
HDLの基準値(JAS 2022)
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男性:40 mg/dL以上が目標
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女性:50 mg/dL以上が望ましい
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低すぎるHDL(40 mg/dL未満)は動脈硬化リスクの増加とされる[1]
なぜ「HDLが高ければ安心」が見直されているのか?
新たな研究報告
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HDLが高すぎても動脈硬化リスクは下がらないどころか、むしろ上がる可能性があるとする報告が増えてきました。
例1:CANHEART研究(2016年)
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HDLが60mg/dLを超えると心血管リスクが逆に上昇傾向[2]
例2:JAMA Internal Medicine(2022)
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HDLが極端に高い(90mg/dL以上)群で全死亡率の上昇が確認[3]
HDLの“質”が重要という概念へ
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HDLは単に「量」ではなく、抗酸化作用・炎症抑制などの“機能”が劣化しているケースがある
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特に糖尿病やCKDでは“劣化HDL”が増え、逆に動脈硬化を促進する可能性がある[4]
最近のガイドライン・エビデンスからみる最新の評価
JAS 2022での扱い
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HDL高値については「臨床的に意味のある評価指標ではない可能性も」と明記
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逆にHDL低値は依然として強力なリスク指標とされる[1]
米国AHA/ACCガイドライン(2019)
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HDL 60mg/dL以上でも「単独では心血管予防の指標としない」と記載
新規性
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「HDLが高い=健康」という従来の常識は機能性を無視した誤解である
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薬でHDLを増やしてもアウトカム改善しないという事実が確立(CETP阻害薬失敗例)
“HDL頼み”を卒業し、総合的な脂質管理へ

HDLは総合評価の一部に過ぎない
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LDL-C、non-HDL-C、TG、HbA1c、hs-CRPと合わせて評価
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HDLが高くても、LDLが高ければ動脈硬化は進行
治療介入の視点
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HDL高値を目指すより、LDL-Cを基準値以下に抑えることが予後改善に直結
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HDLの“質”は運動・禁煙・抗酸化食の摂取で改善可能
数値の裏にある落とし穴
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HDL 80mg/dL以上でも、冠動脈疾患を有するケースが報告多数
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HDLだけで安心せず、全体像を見る診療が求められる
当院でのサポート

当院では、HDLの数値だけに頼らない包括的な脂質・動脈硬化管理を行っています。
1. 脂質の多角的評価
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LDL-C、non-HDL-C、TG、Lp(a)、sdLDL、アディポネクチン、hs-CRP なども測定
2. HDLの質を改善する生活支援
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運動療法(速歩・スロージョギング)
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抗酸化食品(ナッツ、ベリー、大豆、オメガ3)
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禁煙指導やストレスケア
3. 糖尿病・甲状腺機能異常との関連評価
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HDLが高くても動脈硬化が進む背景に糖尿病や甲状腺機能亢進症が隠れていることも
4. 動脈硬化の画像診断と予防
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頸動脈エコーや冠動脈CTで数値では見えないプラークの存在を可視化
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LDL-C 55〜70mg/dL未満を目指した治療プランを提案
監修者プロフィール
院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士(東京大学)
山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。
資格・専門性
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日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医
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日本内科学会 総合内科専門医
豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。
引用文献
[1] 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.
[2] Ko DT, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016;4(2):105–114.
[3] Madsen CM, et al. JAMA Intern Med. 2022;182(5):474–485.
[4] Rosenson RS, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2016;36(10):1904–1912.