SGLT2阻害薬の心腎保護作用に関する最新エビデンスについて

SGLT2阻害薬とは? ~糖尿病治療薬から心腎保護薬へ~

SGLT2阻害薬(Sodium-Glucose Cotransporter 2 inhibitors)は、腎臓でのグルコース再吸収を阻害し、尿中へ糖を排泄することで血糖を下げる薬剤です。当初は2型糖尿病の治療薬として開発されましたが、近年はその作用を超えて「心血管保護」や「腎機能保護」においても注目されています。

主なSGLT2阻害薬:

  • ダパグリフロジン(Dapagliflozin)

  • エンパグリフロジン(Empagliflozin)

  • カナグリフロジン(Canagliflozin)

  • エラグリフロジン、イプラグリフロジンなど

新規性と独自性:

  • 糖尿病がない患者にも効果があるという**“血糖中立的”な腎・心保護作用**

  • 利尿・降圧・心拍数抑制など、多面的な作用メカニズムが明らかに

DAPA-CKD試験とその臨床的意義

DAPA-CKD試験(Dapagliflozin And Prevention of Adverse outcomes in Chronic Kidney Disease)は、2020年に発表された画期的な臨床試験で、SGLT2阻害薬が慢性腎臓病(CKD)患者においてどのような利益をもたらすかを評価した研究です。

試験概要:

  • 対象:eGFR 25~75 mL/min/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比200~5000のCKD患者

  • 人数:4,304名(糖尿病の有無を問わない)

  • 薬剤:ダパグリフロジン 10mg/日

主な結果:

  • 複合アウトカム(腎不全、eGFR50%低下、腎死、心血管死)を39%リスク低下(HR 0.61, p<0.001)

  • 糖尿病の有無に関わらず効果が一貫

  • 有害事象(低血糖、ケトアシドーシスなど)の発生率は低く、安全性も高い

出典:

Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2020;383:1436–1446.

EMPA-KIDNEY試験の最新知見

EMPA-KIDNEY試験(Empagliflozin in Chronic Kidney Disease)は2022年に結果が発表された大規模RCTで、エンパグリフロジンによるCKD患者への影響を明らかにしました。

試験概要:

  • 対象:eGFR 20~45、またはeGFR 45~90で尿中アルブミン/クレアチニン比が高いCKD患者

  • 人数:6,609名(糖尿病患者を含むが、非糖尿病者も多く含む)

  • 薬剤:エンパグリフロジン 10mg/日

主な結果:

  • 腎・心イベントの複合リスクを28%減少(HR 0.72, p<0.001)

  • 心血管死亡または入院率も有意に低下

  • 糖尿病非保有群でも効果が明確に確認された

出典:

The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. N Engl J Med. 2023;388(2):117–127.

SGLT2阻害薬の心血管疾患への保護効果

SGLT2阻害薬は腎保護にとどまらず、心不全や心血管死の予防においても有効性が示されています。

代表的な試験:

  • EMPA-REG OUTCOME試験:心血管死リスク38%低下(Zinman B, et al. N Engl J Med, 2015)

  • DAPA-HF試験:心不全入院・心血管死の複合リスク26%低下(McMurray JJV, et al. N Engl J Med, 2019)

メカニズム:

  • 糖排泄による体液減少・前負荷軽減

  • 心筋エネルギー効率の改善(ケトン体利用促進)

  • 血圧・体重・尿酸値の低下による全身代謝改善

ガイドラインでの評価:

  • 日本糖尿病学会・日本腎臓学会・日本循環器学会の最新ガイドライン(2023年版)では、心不全や腎疾患を合併する糖尿病患者に第一選択薬として推奨

当院でのサポート

 

当院では、SGLT2阻害薬の心腎保護作用を重視し、患者さま一人ひとりの状態に合わせた処方とモニタリングを行っています。

当院の取り組み:

  • 血糖値だけでなく、eGFR、尿中アルブミン、BNPなど多角的に評価

  • 心不全や腎疾患のある患者にはSGLT2阻害薬を積極的に検討

  • 低血糖リスクの少ない薬剤として高齢者にも安全に使用

  • 投与後の脱水・尿路感染症などの副作用モニタリングを徹底

独自の工夫:

  • 看護師・薬剤師と連携した副作用チェック体制

  • 管理栄養士による食事アドバイスも同時進行

  • 専門病院(牧田総合病院など)と連携し、腎機能評価や心エコーも迅速に実施

糖尿病治療は“血糖コントロール”にとどまらず、“臓器保護”の視点が求められる時代へ。SGLT2阻害薬はその中核を担う選択肢です。


監修者プロフィール

院長 山田 朋英 (Tomohide Yamada)
医学博士 (東京大学)

山田院長は、糖尿病・甲状腺・内分泌内科の専門医であり、東京大学で医学博士号を取得しています。東大病院での指導医としての経験や、マンチェスター大学、キングスカレッジロンドンでの客員教授としての国際的な研究経験を持ち、20年間の専門の経験を活かし生まれ故郷の蒲田でクリニックを開院しました。

資格・専門性

  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・研修指導医

  • 日本内科学会 総合内科専門医

豊富な臨床と研究の経験を活かし、糖尿病や甲状腺疾患における最新の治療を提供しています。


引用文献:

  1. Heerspink HJL, et al. "Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease." N Engl J Med. 2020;383:1436–1446.

  2. The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. "Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease." N Engl J Med. 2023;388(2):117–127.

  3. Zinman B, et al. "Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes." N Engl J Med. 2015;373:2117–2128.

  4. McMurray JJV, et al. "Dapagliflozin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction." N Engl J Med. 2019;381:1995–2008.

  5. 日本糖尿病学会, 日本腎臓学会, 日本循環器学会. 各学会ガイドライン2023.

 

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