TSHレセプター抗体(TSH受容体抗体)が陰性のバセドウ病について

バセドウ病とは

バセドウ病は、甲状腺が過剰にホルモンを分泌することで引き起こされる自己免疫性疾患です。甲状腺ホルモン(T3、T4)の分泌が過剰になると、代謝が亢進し、心拍数の増加、体重減少、発汗過多、疲労感などの症状を引き起こします。バセドウ病の主な原因は、TSHレセプター抗体(TRAb)が甲状腺刺激ホルモン(TSH)の受容体に結合し、甲状腺を過剰に刺激することです。
日本では甲状腺機能亢進症の中で最も多い疾患であり、患者数は年々増加しています。特に女性に多く見られ、男女比は約1:5と報告されています[1]。
バセドウ病と妊娠

TSHレセプター抗体が陰性のケース

通常、バセドウ病はTSHレセプター抗体(TRAb)が陽性であることで診断されます。しかし、一部の患者ではTRAbが陰性であっても、臨床的にバセドウ病と診断されることがあります。このようなケースは比較的まれであり、診断と治療に特別な配慮が必要です。

考えられる原因

  1. 抗体検出感度の限界
    現在使用されているTRAb測定法には検出感度に限界があり、抗体濃度が非常に低い場合には陰性と判定されることがあります。
  2. 他の刺激因子の関与
    TRAb以外の未知の自己抗体や因子が甲状腺を刺激している可能性があります。たとえば、インスリン様成長因子(IGF-1)受容体抗体などが甲状腺刺激に関与しているとする仮説も提案されています。
  3. 検査タイミングの影響
    病気の進行や治療によって抗体値が低下することがあります。例えば、治療中の患者では抗体が一時的に減少し、検査で検出されないことがあります。
  4. 非典型的な病態
    TRAbが関与しない別のメカニズムによって甲状腺機能亢進が生じている可能性があります。

疫学情報

  • 全体的な有病率
    バセドウ病の有病率は日本で約1,000人に1人とされており、女性ではさらに高い割合で発生します[2]。発症のピークは30~50代であり、特に妊娠中や出産後に悪化する場合もあります。
  • TRAb陰性バセドウ病の頻度
    TRAb陰性のバセドウ病は全体の1~5%程度とされ、稀なケースです[3]。
  • 地域差と遺伝的背景
    日本を含むアジア地域では、HLA遺伝子の特定の型がバセドウ病の発症リスクに関連していることが知られています。特にTRAb陰性のケースでは、遺伝的背景や環境要因がより強く影響している可能性があります。

診断のポイント

TSHレセプター抗体が陰性の場合、診断はより複雑になります。以下の点を考慮し、総合的に判断します:

臨床症状

  • 動悸、体重減少、発汗過多、震えなどの甲状腺機能亢進症の典型的症状があるかを確認します。
  • 甲状腺腫大が触診または視診で認められるか。

血液検査

  • 血中の甲状腺ホルモン(FT3、FT4)が高値、TSHが抑制されているかどうかを確認します。
  • 他の自己抗体(抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体)の測定も診断の補助になります。

画像診断

  • 甲状腺超音波検査
    超音波で甲状腺の血流増加や腫大を確認します。
  • シンチグラフィー
    放射性ヨウ素またはテクネチウムによる甲状腺の取り込み率を測定し、過剰な機能亢進を確認します。

家族歴と既往歴

自己免疫疾患の家族歴や患者の既往歴も重要な情報です。

治療法と当院でのサポート

 

TRAb陰性のバセドウ病の治療は、TRAb陽性の場合と基本的に同じです。ただし、患者の病態や背景に合わせて治療を調整します。

抗甲状腺薬

  • メチマゾールやプロピルチオウラシル(PTU)を使用し、甲状腺ホルモンの過剰分泌を抑えます。
  • 軽症の患者では抗甲状腺薬のみで症状が改善する場合があります。

放射性ヨウ素治療

  • 放射性ヨウ素を用いて甲状腺細胞の一部を破壊し、過剰なホルモン分泌を抑制します。
  • 妊娠中は禁忌とされています。

手術

  • 大きな甲状腺腫がある場合や他の治療が効果を示さない場合に甲状腺切除術を検討します。この場合は他院に紹介します。

補助療法

  • β遮断薬を使用して動悸や震えなどの症状を一時的に緩和します。


    当院でのサポート

当院では、TRAb陰性を含むすべてのバセドウ病の診断と治療を専門的に行っております。以下のサポートを提供しています:

  • 詳細な診断
    高感度の血液検査、超音波検査などを駆使して正確な診断を行います。
  • 患者中心の治療計画
    患者様のライフスタイルや希望に合わせた治療法を提案します。
  • 継続的なフォローアップ
    定期的な検査と診察により、治療の進捗と病状の管理を行います。
  • 最新の医学知識を活用
    国内外の研究結果に基づいた最新の治療法を提供します。

参考文献

  1. Imaizumi M, et al. "Thyroid diseases in a population-based study in Japan: Prevalence of hyperthyroidism and hypothyroidism." Clinical Endocrinology, 2009.
  2. Brix TH, et al. "Graves' disease: Epidemiology and genetic and environmental influences." Annals of the New York Academy of Sciences, 2006.
  3. Kamijo K, et al. "Clinical features and management of TSH receptor antibody-negative Graves' disease." Endocrine Journal, 2015.

院長プロフィール

山田朋英(Tomohide Yamada)
蒲田駅前やまだ内科糖尿病・甲状腺クリニック 院長

  • 学歴: 東京大学大学院博士課程修了(医学博士)
  • 職歴:
    • 英国マンチェスター大学・キングスカレッジロンドン 客員教授
    • 糖尿病および甲状腺疾患の専門医として19年以上の臨床経験
  • 受賞歴: 国内外での研究成果に基づく数々の賞
  • 専門分野: 糖尿病、甲状腺疾患、内分泌疾患に関する診療および研究
  • 趣味: 仕事

当院では最新の医学知識と患者様の立場に寄り添った医療を提供しております。お気軽にご相談ください。

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